前の記事で紹介した決闘裁判は、法無き世界(特に辺縁)において苦肉の策として用いられた自力救済の世界と、キリスト教の運命論がいびつに結びついた歴史の徒花であった。
では、キリスト教のない中国や日本ではその位置に何が居座っていたか。日本における答えの一つは武士道であると答えたのが新渡戸稲造であるが、もう一つある。任侠だ。
というわけで、今日は任侠がテーマの漫画を紹介するよー。
暴力団ともヤンキーとも違う任侠もんが異世界転生するお話
ひとつ前の記事で紹介した「決闘裁判」のほか、「リョウマノガゴウ」など迫力のある近接戦闘の描写に提唱がある作者宮原裕樹と「クロサギ」「正直不動産」などヤクザな商売をテーマとした作品の原作で有名な夏原武のコンビによる異世界転生もの。
両者の強みをガッツリ活かせる組み合わせになっている。
作品自体は上から無料で読めるので読んでみてくださいって感じです。
元々「任侠」として生きてきた人間が、抗争に巻き込まれて死に、とある国の姫様として転生し、ボロボロになった国を任侠の親分のやり方として改善していくというお話。
真っ先に取り組むのが「ドラッグが蔓延してボロボロになった都市」でドラッグを製造している奴を突き止めてしばきあげ、中毒患者の更生を行うというところからスタートなので普通の内政とは大きく異なる。
ストーリー自体面白いのだが、夏原武氏による巻末のコラムが凄く面白い。
そもそも任侠とは何か、について歴史を踏まえて解説している。
何といっても「暴力団」とはどう違うのか、どこから違っていったのかについてしっかり語られている。
『史記』「遊侠列伝」の著者である司馬遷は、「『仁侠』の志を知らずに彼らをヤクザやチンピラなどと勘違いして馬鹿にするが、それは悲しいことだ」と述べている
地方においては法の権威が及ばない、あるいは中央の監視が行き渡らないため人民が地方官僚の暴政に悩むという背景の中、任侠とは庶民の中にあり圧政や無法地帯の馬賊から庶民を守る正義の味方という側面があった。そこから、法に頼らない個人レベルとしての恩に対する義理や義兄弟の忠誠が強調
キーワードを抜き出すと「反権力」「庶民の正義」「弱気を助け強きをくじく」の3点があげられよう。
これは何かというと「ワンピース」そのものであると言える。「鬼滅の刃」はこの任侠の論理をさらに内輪よりにしたものであり個人的には15巻以降はそれほど好きではないのだが、やはり任侠バリバリである。
鬼滅の刃のヒットの要因なんかはわからないが、「ヒットした後に広く支持されている」という点は重要であり、日本人はほんとに任侠ものが大好きなのだというのは間違いないと思う。(にも拘わらず、中国で大人気の武侠小説は広まらない。これはなぜなのだろうね)
夏原武が言うには、ヤクザの変質は三代目山口組からだという
暴政や馬賊などがはびこる半無法地帯の中での庶民の正義という旧中国と違い、法治国家における無頼の輩が「相互扶助を目的に自己を組織化した」のが「暴力団」である。
日本におけるヤクザの特徴はギャングやマフィアと違い強盗など犯罪を目的とした秘密組織ではなかったところにあった。しかし、今後は間違いなく秘密組織の顔を持っていくようになるだろう。表立った規制が強化され、半グレがハバを利かせている以上、公然組織であるメリットなどないからだ。
私は株クラでもあるのて、暴力団や反社会的勢力の資金が時々上場企業の株価を動かしまくっているのを目にするがその話は今回はおいといて。
このあたりの詳しい部分は実際に単行本で読んでもらいたいのだけれど、主人公がこれだけ「任侠」キャラで攻めていくのであれば、最初は「反権力」ということで王族や貴族に立ち向かっていくのだろうが、おそらくある程度進んだら「暴力団」的な存在感との戦いも出てくるだろう。
すごく楽しみである。(というか2巻で早速王国からは追われ、新たな街で「自警団」と抗争状態になってる)
おまけ
小説においても任侠小説はめちゃくちゃ根強い人気あるしね……。ヤンキー系マンガは全然好きじゃないけど私もたまに読むとすんごい面白いなって感じます。
私の知り合いに任侠小説がめちゃくちゃ好きな人がいてたまにお薦めとかしてもらうことがあるんですが、表紙がめっちゃ格好いいんだよね。

- 作者:浜田文人
- 発売日: 2020/04/08
- メディア: Kindle版

- 作者:浜田 文人
- 発売日: 2013/06/11
- メディア: 文庫

- 作者:浜田 文人
- 発売日: 2012/10/10
- メディア: 文庫
「龍が如く」の影響で、「ヤクザな世界で任侠を通す主人公」ってイメージが人気になってると思うのですが「ビジネス小説×暴力」の両面があるからエンタメとしては本当に面白いです。特に「捌き屋」シリーズはいいぞ。