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「赤狩り」 :1950年代のアメリカにおいて真の意味で表現の自由のために戦いぬいた人たちを描く作品

個人的お気に入り度★★★★★(お薦め度★★★★★)
今年読んだマンガの中で個人的ベスト3にして、お薦め度でいえば今年のベスト1作品です



特に歴史好きな人にはマストBUY!



「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という箴言がある。「表現の自由」について考えるとき、この作品は学ぶべき歴史を描いてくれている


我々が「民主主義国家における表現の自由」について語る時、我々が学ぶべきもっと重要な歴史と言えば何かというと、それは「文化大革命」以上に「赤狩り」の方ではないでしょうか。

“アカ(赤)”こと共産主義者の疑いをかけられた人物の大半は、メジャー映画会社をクビにされ、ハリウッドでは雇用しないという声明を出されます。
これにより、1954年までに約1万人が職を失い、約250人が国外脱出、約150人が投獄されました。


というわけで。



現代で再び猛威を振るいはじめた「キャンセル・カルチャー」について語る際に避けては通れない「赤狩り」について、めちゃくちゃ丁寧に歴史を追いかけている作品です。



インターネットで「表現の自由」について語っている人は全員このマンガを読み、ここに書かれている内容を前提として議論してほしいと本気で思っています。そのくらい、非常に重要な作品。



あまりにも情報量が多くて濃密な作品であるため紹介をあきらめていたのだけれど、ついに完結したので、ぜひ読んでもらいたいと思って1巻の内容だけ詳しく説明します。




私のように赤狩りの歴史について、言葉だけ知っているがその詳細を全く知らなかった人間にとって最良の入門書だと思う

この作品で描かれている表現規制は、実際にあった歴史を元にしている。

そして、この当時の規制というのは現代日本のネットで見られる「なんちゃって表現規制」とはレベルが違う。

国家が明確な意思をむき出しにして作家たちを殺しにかかったものである。

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ちなみに、ウォルト・ディズニーが積極的に赤狩りに協力したのは有名な話ですね。


過激な「表現規制」の背景にあったのはアメリカとソ連の冷戦、もっといえば「原子爆弾」などの脅威であった


このあたりは歴史の授業の際に習ったはずだと思うので割愛する。

ともかく、「ローゼンバーグ事件」などいくつかの重大なイベントを経てHUACという戦時中に創設された機関に強力な権限が与えられる。

そして、FBIや政府主導で積極的に特定の作家を「非国民的なもの」と認定して、名指しで抹殺にかかった。

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ja.wikipedia.org

最初に指名されたのは19名の人間であり、このうち13名は脚本家だった。

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これに対して、作家たちは日本の憲法21条にあたる修正第一条を掲げて対抗した。

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それだけではなく、作家たちは
「そもそもHUACには作家の政治的立場について質問する権利などない」と
堂々と法廷闘争で反撃に打って出た。

ja.wikipedia.org

映画業界内部でも「憲法修正第一条支持委員会」というものが立ち上がり、彼らをバックアップしようとした。

最初は彼ら彼女らは一枚岩だった。


しかしFBIは党員と疑わしき人間を盗聴し、プライベートを暴き、スパイへ仕立て上げることで分断を図った

地位を得ており、やましいところがない作家たちは堂々と立ち向かった。

しかし、貧しく、社会的地位が低い、弱い立場の党員たちは次々と切り崩されていく。

そこから作家たちの共産党での活動記録も漏れる。 

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さらに、作家たちの中でも恵まれていない立場の人間は懐柔されて自ら彼らを裏切っていく。

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まずやり玉にあげられたのが人気脚本家の「ドルトン・トランボ」の作品だった

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温泉むすめの件で仁藤夢乃氏がやったのと同じ「難癖」がここでも繰り広げられる。
今の日本ではともかく、アメリカではこういう証言によって作家の社会的生命そのものが危機に陥られたのである。



実際の告発の多くは、ウォルトディズニーのように
「労働者問題の解決のために労働組合の力をそぎたい」という立場だとか

レーガンのように
「俳優としてはパッとしないが国家とコネクションを作りたい」という欲だとか

サム・ウッドのように
「気に入らない脚本家を失脚させたい」という私怨だとか

そういった本質とは異なる観点からかき集められた都合の良い寄せ集めだった。まともな状況であれば一笑に付されるようなものが多かったのである。

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最初19人の作家側は「ただのポジショントークに過ぎず、まともな批判とは言えない」と甘く見ていたが……

当然、最初は誰も本気にしなかった。

新聞もHUACの調査に疑念を示すような意見を掲載していた。

映画制作者協会の会長も当然政府の介入を拒否する姿勢を示していた。

なにより、作家たち自身が余裕を持っていた。

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だから最初は明らかに作家側が正しいとして、大衆は作家側を支持していた


HUACは、現役の党員に狙いを絞って強引な取り調べを行い、それに反発する作家側のふるまいを見せることで「過激派」のイメージを植え付けようとしてくる

ここでも最初はHUACの強引なやり口に大衆は反発を示していた。

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しかし、HUACたちのあまりに傲慢なふるまいに対して、作家たちは怒りからか相手を痛烈に批判し、論破しにかかってしまった。

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この印象があまりよくなかった。

だんだんと、作家側を批判する声が、笑い飛ばされることなくまともに受け入れられるようになってきたのである。


さらに、「憲法修正第一条支持委員会」の中でも、共産主義への反発が高まってきてしまう。

これにより、「表現の自由の戦い」で一枚岩だったはずの人たちに亀裂が走る。一部の人たちの中には「でも私は共産主義ではない」という但し書きを言い出すようになってしまう。

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過激な物言いをして外部からの好感度を下げる人間がいると、一部の人には強く支持されるが支持者がどんどん減っていってしまう。

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こうして、だんだんと作家たちは不利な状況に追い込まれていくことになる。



脚本家たちが職を失う事態に陥ったことで、「共産主義者」への攻撃が既成事実として正当化されていくことになってしまう

結局、脚本家たちは議会侮辱罪で訴えられ、さらに11月に映画製作者協会は彼らを解雇することになる。

それどころか、彼らが共産主義者ではないと宣誓しない限り再雇用しない構えを発表する。

作家たちのリーダー役を務めていたワイラーは、終始穏便な和解の道を模索しようとしていたが、解雇された作家たちの弁護士は、徹底抗戦に出ることを決めてしまう……





国家が創作者に牙をむいたとき、どれほど恐ろしいかが嫌というほど描かれる。

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ここまでがほぼ1巻の内容です。

正直、私はこの赤狩りのことをよく知らなかったから、本作品は3巻くらいで終わるだろうと思ってました。

実際は10巻もの間、作家たちは延々と苦しめられ続けます。自由を奪われたり職を失ったりした人もいるし、国民からのリンチにもあう人もいた。

そのくらい「表現の規制」というのは恐ろしい者なんです。

私のように無知な輩が、お気持ちで軽々しく弄んでいい話題ではないと、この作品を読んだ後なら思えるはずです。




でも、今の日本のインターネット状況見てると我々はすでに赤狩りの歴史が与えてくれる教訓を失ってます。

このマンガにおける1巻の内容をなぞるような展開を見せています。

「馬鹿で傲慢に見える」ツイフェミや表現規制論者に対して、敵意をむき出しにし、それでいて雑に論破して悦に浸っているだけの人たちが多いこと。

このままだと、本当に2巻~3巻にかけて描かれる悲惨な展開までなぞってしかねません。



私もつい最近本作を読み終わったばっかりなので偉そうなことは言えませんが、ぜひこの問題に関心がある人はぜひ「赤狩り」を通しで読んでみてほしいです。

学べるところがとても多く、絶対に読んで後悔することはないと思います。

歴史的イベントを生き生きとえがいた群像劇としても非常に面白く、「ローマの休日」をはじめとするいろんな作品についての見方も変わってくるでしょう。



併せてこの映画も見てみようかなと思いました