頭の上にミカンをのせる

マンガアニメ大好き兼業投資家の日記です。WORLD END ECONOMiCAアニメ化のCFを応援しています。

ノミがいなくても咳などを介して直接感染する肺ペストが国内で感染拡大したら……「リウーを待ちながら」

治療を行わなければ1~2日ほどで100%の患者が死亡する。5時間で死亡した例もある。
抗生物質が良く効くが、治療は発症後18時間以内に始めなければ予後が悪い。

日本でペスト感染者が発生したのは1926年が最後。1927年以降は日本国内においては撲滅されたとされるが、世界各地でいまだに病原菌を保有している動物は数多く存在し、毎年数万人の感染者が出ている。
f:id:tyoshiki:20200510134035p:plain

「リウーを待ちながら」の設定とあらすじ

作品タイトルの「リウーを待ちながら」のリウー、はもちろん小説「ペスト」に登場する医師「ベルナール・リウー」のこと。これと有名な不条理演劇「ゴドーを待ちながら」の組み合わせになっている。実際に、どちらの作品もこの作品内でも強く意識されている。


舞台は富士山沿いにあり自衛隊基地がある静岡県横走市。(架空の都市で、モデルは御殿場市とされている) 

①主に陸上自衛隊で衛生を担当する駒野二佐と
②市中央病院で働く玉木という医師
③疫研の原神という医師の三人

らを中心に物語が展開する。(途中からは親をペストで亡くした少女視点も増える)

恐ろしいペスト菌の中でも、特にノミなど介さずに「人から人に直接感染するタイプ」のペスト菌が存在するのだが、それが誤って国内に持ち込まれてしまったら……というお話になっている。

あらすじ:初動の対応が遅れた上、中途半端な情報開示によってパニックに陥った状況で病院関係者は……

彼らは、自ら自由であると信じていた。天災というものがある限り、なんびとも決して自由ではありえないのである。


この作品はとにかく病院関係者の視点を中心にしてアウトブレイクを淡々と描いていく作品である。病原菌の猛威に抗えない病院関係者の苦悩が嫌というほど描かれる。



①最初に問題になったのは院内での情報共有。
そもそもトップが現地にたどり着けない中で「ペストらしきもの」としか情報がなく、防護策や客への対応をどうするかの方針も決まらない中で、医療関係者もどうしていいかわからない状態に。マスクをすればいいのか、予防措置はなどなど。

院内の連絡事項は書面にした方がいい。口語でやってると伝言ゲームになっちゃうよ

②次に県の担当者への連絡。抗生物質やマスクの確保

「そこそこあるけど本当に持つのか……」
「今すぐ製薬会社に連絡だな。それからゲートコントロールとトリアージの準備を」

この様子を見ていたら、紙マスクはともかくN95などのマスク買占めを市民が行ったのは重罪だと感じると思う。台湾などの国が医療現場に必要な資源を即座にパニックになった市民から守ろうとしたのはなるほどなと納得できるだろう。



③ここから大量に訪れた外来客を裁くことになるが、隔離などできるはずもなくDP号のような状態に。しかし改めて思うけど、現場にいない人間が、最善じゃないからと言って叩くのはアカンね……。



④病院に殺到する一般人が道をふさいでしまったことで物資が届かず枯渇。人工呼吸器も足りなくなってしまう

「人工呼吸器が足りないわ」
「手配中だ。そのうち来るよ」
「そのうちっていつよ!!」
「ともかく今日を耐えるんだ。明日になれば人も物資ももっと届く」

途中から職員が自転車で運ぶという焼け石に水のような状態に。



⑤夜になってようやく医療物資が届き、一般患者も近隣の病院に搬送できることに自衛隊の協力も正式に開始し、仮設ベッドも増えさらに応急の医師団が到着して、これで一息つける状態に……


この時点で抑え込むことができていたらこの漫画は1巻で終わっていたはずなのだが、ここからが本当の地獄だ……

ここまでで終わっていたら、新型コロナと違って
恐ろしい病気ではあるけれどすでにワクチンがある病気の感染ストーリーとして収まっていたはずです。


ところが「ある事情」によりここから状況が悪化します。ワクチンが効かなくなってしまうのです。病院もワクチンがあると思って対処をはじめ、大衆もワクチンがあると思って予防のために病院に押し掛けたのですが、完全に裏目に出ます。

ストレプトマイシンが効いていない患者さんがいます。
「まだドキシサイクリンを試してない……ゲンタマイシンも…副作用はこの際目をつぶって……」


肺ペストのため感染力も高く、ワクチンによる治癒もできなかったため、あっという間にアウトブレイクが発生します。



これにより再び医療資源が枯渇。

僕らの業界には「基本再生産数」という言葉があります。
これは一人の患者さんが平均して何人に感染症を映しちゃうかを数値化したもので。
インフルエンザは2~3。麻疹は16~21なんですけど。
3日で5人感染するとしても10日で156人に感染することになります。

結果として、もはやすべてを助けることはあきらめざるを得なくなり
トリアージが実施され、死者は「仮埋葬」という形でまとめて土に埋めるしかなくなっていきます。



現場の人間がいくら頑張ってもどうしようもない状態に陥る。

本当に君は闘志あふれる人だね。でも僕らはもう負けた。そしてこれからは負け続けるんだ。
僕らはペニシリン以前の治療しかできないんだからね。君は少し休んだ方がいい。ここからは長い「別の」戦いになる。

この「別の戦い」が始まってからがこの作品の本番になります。



コロナ禍における現実の日本と違い、この作品では死者が多かったためすぐに緊急事態宣言が発令される

*1

これにより自衛隊によって横走市は封鎖されることになり、横走市民だけを犠牲にする戦略がとられます。
現実の日本において「緊急事態宣言」をやたらと称賛している人がいますが実際はこういうヤバイ措置なんですよね。

「町の人を全員閉じ込めて殺すつもり?」

「全員じゃない。2/3だ。中世と同じならね。
 この病をこの町だけにとどめておけば、死者は6万人ですむ。
 日本全土に広がったら8000万人。
 もちろん、今回も2/3死ぬとは限らないよ。」

「こんな重大なこと……あなたは命の選別をしたのよ」

ここからはお決まりの疑心暗鬼コース。

自粛警察が猛威を振るい、
元横走市の人間に対する迫害やいじめなどがいろんなところで発生する描写が見られます。

横走市にいる人間を迫害する人間は、自分たちのことを被害者だと思ってる様子がしっかり描かれてることはすごい。

「私たち、汚いんだって。馬鹿で性格が悪くて人に迷惑をかけても平気なクズだから苦しんで当然だし、死んだ方が世界のためなんだって。」

「誰にやられた」
「転びました」
「嘘をつくな。誰にやられたか言え」
「悪いのは、時分ですから……」

最初に感染が確認された後幸運にも生き延びた人間は、度重なるいじめと自責の念から自殺に追いやられます。えぐい。



世間からは忌避され、石を投げられ、それでも生きていかなければいけない市民たちとそれを治療する医療現場の人たちの姿は悲痛です。現実も我々も、今コロナ感染者に対して同じような目を向けてないか反省を強いられるシーンも多数ありますね。



誰も助けることができないという絶望が医療関係者を襲う

「絶望に慣れることは、絶望そのものよりもさらに悪いのである」

医療関係者は、目の前での死が急に重なりすぎて、だんだんと自分たちが誰も救うことができないという現実に感覚がマヒしていていく。淡々と無表情に医療措置を繰り返す装置のようになっていく。


それでも、玉木は絶望に慣れず、一人一人の患者に寄り添い、その死に涙を流すことをやめない。

私たちには抗生剤も人工呼吸器も除細動器もある!でも私たちは彼らを治せません!そのかわりにできることをしたいんです。 そこをどいてください

2巻の102ページ~103ページの絵はめちゃくちゃきつい……


しかし、玉木のように強くあれる人間はそうはいない。
大半の医療関係者は心が折れて、現場から離脱していく……。自衛隊でも脱柵、脱走を試みるものが出てきて、モラルハザードも発生。悲惨なことになっていきます。




・・・と、ここまでで2巻です。 さすがに3巻の内容は紹介しないので、ぜひ読んで確かめてみてください。




最後まで読み終わっての感想

この作品は小説「ペスト」のオマージュ作品です。 絶望的な状況において、それでも人間は何ができるのかというテーマに沿った作品です。

だから、幸運にもワクチンが開発されてハッピーエンド、みたいな展開はありません。みんなを救うヒーローの話ではありません。

「これだけはぜひ言っておきたいんですがね。今度のことはヒロイズムなどという問題じゃないんです。これは誠実さの問題なんです。こんな考え方はあるいは笑われるかもしれませんが、しかし。ペストと戦う唯一の方法は、誠実さということです。」


そういう「みんなが救われてよかった」、という作品が読みたい人は、変異したエボラ出血熱を題材にした別の感染症マンガ「イマージング」を読むといいでしょう。こっちは途中から失速してしまうのであんまりおすすめではないですが。


そういう意味でみんながハッピーなお話ではないですが、それでも読んだ後にとても勇気づけられます。医療現場の人間の視点から感染症を見るという意味でも、まさに今読むべき作品だと思います。ちょうど重版決定したそうなので、今のうちに読んでみてください。





私は、この「リウーを待ちながら」という作品読んでて二つの作品を思い出しました。

一つがSWAN SONG。


SWANSONG
「リウーを待ちながら」よりさらにエグイ絶望と、人間同士の殺し合いが描かれていますが、そんな中で最後までペシミストとして、人間として生きることを選択した主人公の物語です。全エロゲーの中でもトップクラスに面白いです。


もう一つが「ディバイデッド・フロント」です

この作品は「隔離地域から出ることを許されず、死ぬまで妖獣と戦うことを強いられた兵士」たちが、その中でいかに考えていかに生きるかという話です。めちゃくちゃ好きなのですが知名度が低く残念。Amazonでも入手が難しいみたいなので、図書館などで借りられないか確かめてみてください。

*1:本作品は、日本全国ではなく「この地域だけ」の問題だと考えたから封鎖は迅速でした。実際の日本では経済の面も考えて緊急事態宣言を渋ったんだろうと思います