頭の上にミカンをのせる

「命令されなきゃ、憎むこともできないの?」(ブルーアーカイブ#3 エデン条約編3.私たちの物語)

最近のこのブログのお気に入りは「アークナイツ」です
アークナイツ
kindleセールの紹介
新NISA解説ブログ
発達障害

回転ずし業界一位のスシローはセントラルキッチンを2004年から廃止したよというお話

web.archive.org

青二才さんがいろいろ頑張って飲食業界について語ってるみたいだけどこれはまたすごい微妙な記事……。

いろいろと認識違いが多かったので補足しておきますね。

2020年現在、かっぱ寿司が325店、くら寿司が451店…そして、サイゼリヤは1500店舗以上だそうだ。
こうなってくると…「セントラルキッチン」である程度調理して各店舗に配送、そしてできるだけ調理しないで出してもらうほうがサービスの質が安定する。
特にお寿司屋さんは生モノを多く扱うわけだから…変な店主が出て食中毒でも起こすと大変なので…できるだけ均一したサービス、店舗によるブレを抑えるのは妥当。
むしろ、店主の裁量を増やして全体のブランド価値が下がるのは、企業はもちろん、回転寿司が好きだけど行きづらくなる客にとっても損失だから「料理しないで安心安全なものが出てくる店」は素晴らしいよ。

青二才氏でなくても「大戸屋がやよい軒に負けた理由」として、「セントラルキッチンにしなかったからだ」というのを理由に挙げるネット評論家の人は結構いますが半分正解、半分ハズレって感じだと思いますね。


実際、数字を見れば大戸屋は競合とされる「やよい軒」や「松屋」にシェアを取られる形で売り上げはここ数年低迷し、ついに赤字決算を出すに至ってしまいましたし、セントラルキッチン否定論者だった「ステーキけん」の運営会社は今年になってついに破産しました。

maonline.jp

事業環境の悪化に伴い2019年7月にはけん事業とふらんす亭の運営をジー・テイストへ譲渡。その後はいわたきの運営とフランチャイズあっせん業を主力事業としていたが、2020年1月10日に商号を株式会社エムグラントフードサービスから株式会社MFSへ変更。2020年2月28日をもって事業停止[7]。2020年3月16日に東京地方裁判所から破産手続開始決定を受けた

こういう一面を見せられた上で「やっぱりチェーン店はセントラルキッチンにしないとダメなんだ!」みたいな話をこじつけられたら人によってはコロッと信じてしまうかもしれません。


でも、そんなに単純じゃないというか「大手外食チェーンでもセントラルキッチンを採用していないところはかなり多く、しかもそれが功を奏しているケースも多いです。上みたいな理屈だけで「外食チェーンはセントラルキッチンであるべき」みたいに言われるとすごい違和感がありますね。



そもそも大戸屋の不振の最大の原因は「インフレ」と「経営陣のごたごた」であってセントラルキッチン方式ではない

実際のところ、大戸屋の苦境については、インフレの影響で「手作りの味を低価格で」というコンセプトの維持が困難になり「値上げと質の低下」が起きたことがかなりでかいです。大戸屋と似たような立ち位置の「海帆」も、一時期は好調でしたが現在は悲惨な状況に陥っています。これはワタミも通った道ですし、セブンイレブンの「値段上げるのに上げ底」問題と共通しています。さらに大戸屋の場合、創業者がなくなった後のお家騒動による経営の混乱が続き、ガバナンスに大きな疑問が生じたところにバイトテロ問題が大きいですね。
 
基本的に、飲食業界って景気やインフレ・デフレの影響を受けやすいので常に強い状態を目指すのって難しいんですよ。


news.yahoo.co.jp

不振の主因は価格高騰に起因している。

90年代にウケた「おしゃれな定食屋」のイメージと、元からあった「家庭食の代行」ビジネスとの間で、近年はバランスを取るのに苦慮していた。人件費の増加や消費増税に対処するために値上げを行った。しかし、商業施設で女性が行列をつくっても、学生街では苦戦するケースが相次いでいた。

今回の買収提案が、店内調理にこだわる「ロイヤルホスト」のロイヤルホールディングスや、「丸亀製麺」のトリドールホールディングスから来たのなら、ここまで泥沼にはならなかっただろう。店内調理は他社との差別化ポイントになるもので、必ずしも業績悪化の根源ではない

サイゼリヤのイメージが強すぎてセントラルキッチン(CK)にすれば万事解決って思うかもしれないけどサイゼリヤはオンリーワンクラスの成功例であり、CKが成功するにはいろんな条件があって難しい

www.ritsumei.ac.jp

青二才さんも一応そのことはわかっているみたいで、餃子の王将を例に出して店舗数が多くても教育しっかりやればCKでなくてもできると書いてます。ただ、この点についてはもう少しちゃんと理解した方が良いと思います。

全国展開している外食チェーンでは、ガスト、やよい軒、くら寿司、コメダ珈琲などが主力商品を中心にCKを採用しています。ところが、CKを採用していないチェーンもあるのです。ロイヤルホスト、大戸屋、スシロー、星乃珈琲などです。なぜ上記のようなメリットがあるにもかかわらず、CKを採用していない外食チェーンが存在するのでしょうか?

CKのメリットを生かすためには例えば、以下の諸条件が満たされないといけません。

1. 調理した食材の質を下げずに各店舗に運搬できること。
単なる食材ではなく、半分調理したものを、質を保ちつつ運搬するには時間との戦いです。そのためには技術やノウハウが必要ですが、容易に獲得できる技術ではありません。

2. 高い稼働率が維持できること。
セントラルキッチンでの低コストを享受するためには、稼働率が高くないといけません。たとえば大量の調理した料理を消費できる店舗数を確保しておかねばなりません。

讃岐うどん業界のはなまるうどんはCKを用いて、一気に全国に店舗を増やしましたが後発の丸亀製麺は、うどん職人を養成し、ゆっくりしたペースでしたが店舗数を着実に拡大していきました。

ちなみに、CK方式を持つ企業は、M&Aや資本業務提携ででどんどん拡大を目指す傾向にあります。拡大が止まるとCKはうまく機能しなくなるからです。

「ゼンショー」と「コロワイド」がその最たるものであり、ゼンショーの強さはCKを活用したコスト削減にあります。ご存じかと思いますが、コロワイドの前にゼンショーが先にカッパ寿司を買収しましたが1年で手放しています。

先ほども述べたように、大戸屋の不振は「インフレ」が最大の原因であり、「松屋」や「やよい軒」と違って価格上げに失敗したことが最大の原因です。
これに「宅食へのシフト」が加速したことが大きな要因になっています。セントラルキッチンの問題ではなく経営戦略のミスでなんですよね。

セントラルキッチンにしたところで解決する問題ではないので、本当にCK方式にするならワタミの時と同じく店舗名もコンセプトもまるっと変えることになるでしょう。
コロワイドが大戸屋を買収しようとする意図が正直全く理解できないというのが本音ですね。



寿司業態の場合はCKの方が難しい。青二才さんが言ってる「かっぱ寿司」は2014年からセントラルキッチン方式を転換している

2014年に企業体質の違いを明確に指摘されていますが、寿司業態の場合はCKの方が難しいです。
くら寿司とはま寿司、それから函館市場がCK方式ですが、そもそもくら寿司もはま寿司も寿司であまり勝負してません。

www.ryutsuu.biz

「元気寿司は店内調理で、職人肌であり、寿司の美味しさを追求している。その分、効率が悪い部分があった。一方で、かっぱ寿司は、経営効率を重視しており、セントラルキッチンを採用し、システム化が進んでいて、考えが違った。1年半をかけたが、(経営統合を)断念した」

結局この後、元気寿司は5年間で20%以上売り上げを伸ばしたのに対し、かっぱ寿司は不採算店舗の撤退などもあり売り上げを10%落としています。

かっぱ寿司が多少なりともまともになったのはむしろ「うまく機能していないセントラルキッチン方式からの脱却」を進めたから

かっぱ寿司が"どん底"から抜け出せたワケ やっと「すし」がおいしくなった | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
この記事はこの記事でどうなんだって思うところはありますが、少なくとも2014年以降かっぱ寿司がCK方式からの脱却を目指したのは確かです。

同社は商品品質の改善を図った。例えば、従来はすしネタの加工を工場で一括で行っていたが、2014年からそれを店舗で加工するように改めた。それにより、「作りたて」や「新鮮さ」をアピールできるようになった。

青二才さんの「チェーン店の店舗数が500くらいだからCKキッチンじゃないとダメ」という理論は全く現実にそぐわないです。



そもそも論として、業界一位のスシローはセントラルキッチンではないです。

www.akindo-sushiro.co.jp
売上日本一のスシロー 好調支えるDB効率化と一手間惜しまぬ姿勢(マネーポストWEB) - goo ニュース
www.excite.co.jp
スシローの進化についていけなかったかっぱ寿司 (5/5) - ITmedia ビジネスオンライン
スシローのオペレーションのすごさについては2016年くらいにtogetterでまとめてますので興味がある人は探してね。

青二才さんは「CKかどうか」という視点しかないようですが、
それよりも現場オペレーションITやロボットによって改善することで差別化している企業が最も強いということは考慮しておきたいですね。

さらにいうと「経営」の話をするのであれば、ROEや財務レバレッジの話をしてほしいなと思います。
maonline.jp



そもそもコロナによってCK方式の弱点が露骨に出た状況でCK万能論みたいなこと言われても……

CK方式の弱点は言わずもがなで「損益分岐点」の高さゆえに「高い稼働率」を維持する必要があり、それができない場合テンポごとではなくエリア単位で撤退を余儀なくされることです。

そして、これがコロナでもろに影響が出ており、CK方式に特化してドミナント戦略的に集中出店していた企業の赤字は、そうでない企業の何倍も大きくなっています。今後もオフィス街などで同じレベルの客足が戻ってくる見込みはまずありません。

そういう状況で「セントラルキッチン」のメリットだけしか見てないのであればそれは時流が全然見えてないんじゃないでしょうか。

f:id:tyoshiki:20201024141546p:plain

今後むしろセントラルキッチン方式はうまくやらないと厳しい企業が出てくると思います。




ただ、ここで言いたいのは「どちらが正解」ということではなく、「今必要なのはどちらなのか」をよくよく考える必要があるということです。誰も正解がわからないから飲食店経営って難しいわけで、私のこの記事も含めて、飲食店経営について自分が飲食店経営をやってるわけでもない部外者があーだこーだ言ってる記事は基本的にゴミくらいに思ってた方がいいです。少なくとも私や青二才さんレベルの人間がどうこう言えるような簡単な話ではありません。



余談として。先ほどのスシローの件もそうですが、今のブームは現場オペレーション改善やAIによる計数管理による個店ごとの経営改善だったりします。このあたりをやってる企業にものすごい資金が流れ込んでおり、マザーズバブルになっていました。

いい加減マザーズバブル崩壊してくれへんかなあ……。




蛇足。 「いわゆる青二才記事」について

今回の記事って「青二才」さんの各記事あるあるだなって思いました。一言でいうと「未完成品」です。青二才さんって漫画紹介みたいなものでない限り基本的に一人では記事を「完成品」にできないんですよね。(だからはてブによるツッコミがつかなくなった瞬間あまり価値のあるコンテンツではなくなり人気が衰えていった)。着眼点はすごくいいんですけど①だいたい単一論点 ②詰めが甘くて竜頭蛇尾になるケースがほとんど という2つの大きな難点がありますよね。思いついた後途中で飽きるのか、後半になると露骨にgdgdになっていきさらによく知らないことを知っているかのように語る傾向があります。例えば今回の記事で言うと……特に外食チェーンに興味のない人でも、記事を読んでいくと後半になるにつれ勢いがどんどん落ちていき表現もお茶を濁すようなものになっていくことが露骨に感じられると思います。序盤がやたらとくどくどと具体的に思い入れたっぷりに書いてくれているおかげで、逆に後半の文章のしょぼさを見れば「コロワイド」についてはほとんどなんも知らないし、「大戸屋」のことも大して知らないんだろうなってのは、知らない人が読んでも伝わるんじゃないでしょうか。(そもそもここ数年で食べたことあるのかな?) 彼が知ってるのは餃子の王将とか自分がバイトしている時のかっぱ寿司の経験くらいで、セントラルキッチンのことも大してわかってないなってのが、そのあたりの知識ない人にでもわかっちゃうってある意味すごいわかりやすい記事だと思います。 そういうわけで前半で切っていれば面白い記事になったのに、後半のしょぼさのせいで竜頭蛇尾な印象を与えてしまう。これこそがが青二才さんの記事あるあるなんですよね。 「それならそれで、知ってることだけ書くようにすればいいのでは?」って普通の人は思うかもしれませんが、青二才さんにはそこで「自分はこれあんまり知らない」に向き合おうとしません。最初に「わかってる俺」風で書き始めてしまうからです。だから、知ってることだけで語ろうとした時にあまりたいした論にならない場合、知らないことを調べないで適当に「憶測」で埋める。憶測で埋めてるならせめてそこは憶測ですと書けばいいのに言葉を濁して微妙に俺知ってるぜ感を出そうとする。そうして微妙な仕上がりになってしまうわけです。これは昔からずっとそうで、この「もったいない感じの未完成品」を量産し続けてきたんですよね。もうちょっと手間入れれば価値のある記事になるのになーってのが青二才さんのブログにはゴロゴロ転がってます。本人に自覚がないのが難点ですが割と前半だけ読むといい記事たくさんあるから今からでも読んでみるといいかと思います。



おまけ 私のおすすめの外食チェーンは前からずっと言ってますが「フジオフードサービス」です。

mamaoasis.net

まいどおおきに食堂は、チェーン店ながらセントラルキッチンは持たず、毎朝店舗スタッフが手作りしています。
人とのふれあいや思いやりを感じられるような昔ながらの大衆食堂をイメージしているんだそうですよ。

メインの「まいどおおきに食堂」は418店舗ありますがセントラルキッチンを持ちません。
一方で、店舗数はこれよりずっと少ないのにセントラルキッチンを持ってたりして、すごく柔軟に運用しています。
東京に引っ越した関係で以前のように優待が使えなくなってしまいましたが、買値を下回らない限りはずっと持ち続けてお付き合いしたいなと思っています。