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「命令されなきゃ、憎むこともできないの?」(ブルーアーカイブ#3 エデン条約編3.私たちの物語)

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「可愛そうにね、元気くん」 ポリコレでは描けない・救えない者たちを描く作品

お気に入り度★★★★(人を選ぶのでお勧め度は低め)

おかしかったら幸せになれないの?その他大勢の幸せに合わせなきゃいけないの?

「1巻だけ読んで判断するなかれ」な作品。1巻の元気くんは「好きな女の子(八千緑さん)のリョナ創作を描いて満足する変態野郎」として描かれている。

元気くんは己の加害欲求を醜いものだと自覚しており、絶対にその気持ちを表に出してはいけないと戒めながらも、八千緑さんを好きな気持ちだけは許してほしい、好きな女の子の側に居ることだけは許してほしいと願っていた。

いろいろあって、3巻では元気くんの己の薄汚い性癖は好きな女性(八千緑さん)に知られてしまうことになる(自分から打ち明ける)。ところが彼女は自分を嫌悪するどころか受け入れてくれる。むしろ二人は付き合うことになる。


この辺りまで読むと「???」となるし、「聲の形」あたりを見て発狂していた、創作に過剰なまでに倫理を求める癖に自分の倫理観ガバガバな人たち*1は、ブチ切れそうな展開である。



しかし、ここから元気くんが体験するのは天国ではなくて地獄だった



自分をモノとして消費されることにしか喜びを感じられない八千緑さん

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元気くんは、二次創作でこそ加害欲求を描いていたが、実際には割とノーマルな人間だったのだ

「創作上で八千緑さんがリョナ的な目にあうのを想像したりするのは興奮していたし、付き合っていないころに八千緑さんがけがをしているのを見た時は興奮したが、付き合うことになってから八千緑さんを偶然自分が傷つけてしまった時、全く性的興奮を感じなかった」のだ。
あくまで元気くんが求めていたのは傷ついている八千緑さん(彼にとってはその時の彼女が一番きれいに見える)を見ることだけであり、自分で傷つけたい訳ではなかった。むしろ加害行為そのものには強い拒否感があった

そうか……俺は、「そっち側」じゃなかった

俺は、綺麗な八千緑さんが見たかっただけで、この手で傷つけたい訳じゃない。
あんなの描いてたせいで期待させてしまって……

一方、八千緑さんは、「傷つけられる」=「愛されている」と感じる被虐欲求の持ち主だった。
八千緑さんは元気くんに自分を殴ったり傷つけてくれるように望んでくる。

私……こんなに愛してもらったの初めて


元気くんは、八千緑さんに嫌われたくない一心で、乞われるままに彼女を殴ったりしてみるが


もう無理だって。期待しないで。
俺には無理だ。俺なんかが八千緑さんを傷つけるなんて。
死にたくなってくるんだ。
もう謝らせてくれ……

傷つけるたびに苦しくて……
ごまかそうと必死になって脂汗が出て。
ぐちゃぐちゃで気持ち悪くなる。
なのに、それでも好きだ。

助けてくれ。
俺は彼女を壊したくなんか……


www.tyoshiki.com




八千緑さんだけでも厄介なのに、それ以上に恐ろしい「鷺沢守」というキャラが元気くんを襲う

鷺沢さんも1話から登場するキャラクター。

このキャラクターはクラスのアイドル的存在なのに、冴えない元気くんに何かと絡んでくる。その狙いがまたえげつない。


彼女はかなり複雑なねじくれ方をしているのだけれど、説明を省略するために似たようなキャラを一人持ってくると「魂が汚染された後の間桐桜」っぽい。(「メルトリリス」よりも「黒桜」という印象が強い)

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守は、従兄の生徒会長に6年間もなぶられ続け、男への憎悪の心をくすぶらせいていた。その後、ある時剣道部の顧問の教師を叩きのめし、その男がドMであったことからドSの心を開花させ、「男を従属させて壊す」ことに喜びを感じる人間になってしまっていたのだ。

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このドS女の鷺沢守に元気くんはターゲットとしてロックオンされてしまう。彼女は最初から元気くんが実は「ドSではないノーマル」どころか「ドM」だったことを見抜いていたのだ。


とんでもないドMの女と、とんでもないドSの女に挟まれてどっちも選べない元気くんの明日は……。

ちなみに元気くんが好きなドMの彼女(八千緑さん)には弟がおり、この弟はお姉ちゃん大好きお姉ちゃん傷つける男は全員ヌッコロスというシスコンである。

そのため、八千緑さんに見すてられないためには八千緑さんを傷つけなければいけない。しかし、傷つけすぎて弟くんにばれるとゲームオーバー。


また、ドSの彼女(鷺沢守)は、元気くんをドMとしてしつけつつ、八千緑さんを傷つけることのストレスに苦しむ元気くんを見てあざ笑う。さらに「私の犬になれば救ってやる」と誘惑を仕掛けてくる。


このまま八千緑さんとの関係を持続しても地獄。かといって鷺沢守の言いなりになっても犬といしてもてあそばれた上に壊されるしかない。(作中では鷺沢守によって精神を壊された教師が登場する)。


元気くんの明日はどっちだ……?




ポリコレ目線から見たこの作品について

この作品は今のところ「鷺沼守」を中心に動いているので、彼女を見ていたた方が理解がはかどりそうだけれど、最終的に元気くんがどういう決断をするのかがとても興味ある。



主人公は最初こそ、最近炎上してた「ロリコンドール愛好者」のような感じで「異常な性癖の持ち主」みたいに描かれているが、実際は極めてポリコレに忠実な思考の持ち主である。
彼女と付き合うに当たり今まで描いていたリョナ絵をあっさりと捨ててしまうあたりを見ても「電車男」のように、ポリコレに従順な人間に変貌してしまっている。



しかし、「八千緑さん」も「鷺沢守」も、女側は明確にポリコレが求める女性像から逸脱している。

私、ずっと要らない子だったでしょ?得意なことはないし、何の役にも立てない。でもあの時、はじめてそんなことないよって言ってもらえたの。私のことを殴りたいと思ってる人がいる。私だけが応えられる。私にもちゃんと生まれてきた意味があったんだって思えたの。

だから、もし元気くんが「八千緑七」という女性を救いたければポリコレの枠をはみ出さないといけなくなる。


「天気の子」の主人公は、違法行為を犯したけれど自分の倫理観には背かなくて済んだ。でも元気くんの場合は相手が望んでいようが自分の倫理観を破壊しなければ彼女に近づくことすらもできない。


このあたり考えると、いったいどういうところを着地点にするのかとても興味深いです。

*1:あの人たち怖いよね。「なんでこんな人間が幸せになる話を描くんだ」「私の気に入らない人間は不幸になれ」って言ってくるのに、それでいて自分たちが倫理的に善良な存在だと思い込んでるんだから。メタ認知能力ゼロで自分を中心に世界が回ってると思い込んでいる人って今の社会では「狂人」と呼ぶべきだと思うんですけど本人は自分がまともだと思いこんでる。恐ろしい恐ろしい。