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「命令されなきゃ、憎むこともできないの?」(ブルーアーカイブ#3 エデン条約編3.私たちの物語)

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「はっぴぃエンド。」 SF設定をしっかり考えて作られているループもの。「マルチナ=T=ステラドヴィッチの悲劇」を思い出させる結末に私大興奮!

お薦め度★★(個人的お気に入り度★★★★★)

はっきり言ってマンガのわかりやすさという点では微妙な部分もあり誰にでもお勧めできるというわけではない作品。

でも、きちんとSF設定をしっかり考えて作られているし、じっくり読むことで何度となく楽しめる作品です。

ループものが好きだったり、悲劇的な結末が好きな人にはめちゃくちゃお薦めです!少なくとも私はこの作品大好きです。





本作はジャンルとしては「タイムリープもの」である。

これは私の持論なのだがタイムリープやタイムループというジャンルは途中に鬱な展開があってなんぼだと思っている。

時間旅行は最大級の奇跡であり、奈須きのこワールドであっても容易に実現できない「魔法」の領域である。

ゆえに、バランスとしてそれに見合うだけの欠損や問題、強い願望とセットとなって描かれることが多い。

いわゆる「曇らせ」(主人公を絶望させること)の度合いこそがタイムリープの醍醐味である。タイムループ作品が好きという時点で、その人は「曇らせ」展開が好きという性癖があるのとほぼ同義であると言ってよい(暴論)*1



さて、この観点で見た時、本作の「曇らせ」の度合いは、そのタイムリープ、タイムループ作品の中でもトップクラスであると思う。「曇らせ」が好きな人には超絶お勧め作品です。




本作品は読んでいくうちに少しずつ印象が変わっていく。

①1話の時点では「がっこうぐらし」のような作品かと思わせる。
のどかな世界が急に一変し、いきなり今まで親しくしていた人間に惨殺されるというショッキングな展開を迎える。

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②1巻の時点では「ひぐらしのなく頃に」のフルデリカみたいな雰囲気になる。
いきなり惨劇に巻き込まれた主人公が気が付いたら物語開始地点に市に戻りしていた。死に戻りをしながら村の謎を解き、仲間を増やして敵と立ち向かうことで問題を解決するような作品かと思わせる内容だった。



③しかし、2巻の時点で「魔法少女まどか☆マギカ」の暁美ほむらや「Stein's Gate」のオカリンみたいな雰囲気になっていく。「登場人物がループを繰り返す孤独と苦しみの中ですこしずつ魂をすり減らしていく」姿をこれでもかと描き、読者であるこちら側の精神も削ってくる。



④さらに本作品では、実は作品中ではループが起きていなかったことが明かされる。この辺りは「Ever17」っぽくてよい。

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とはいえ、「EVER17」が素晴らしいのは物語の真実がわかったと同時に解決手段が同時に手に入るからである。そうでなければ巨大な問題だけが目の前に壁としてふさがることになる。


本作の場合はその「壁」が巨大すぎる物語である。物語の構造がわかったところで解決できるとは限らない。本作品は終盤で「ネコっかわいがり!」のような絶望的展開を見せつけられることになる。

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※本作ほどエグいわけではないけれど、他にも「はるまで、くるる。」とか「ミサイルとプランクトン」とかもなかんかえぐいです。
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⑤そして、最終的にマルチナ=T=ステラドヴィッチの悲劇の再演となる。
ここで絶望して終わっていた方が幸せだったかもしれない。

しかし主人公は幾度ものループを経て精神的に強くなっていたからこそ、もはや0に限りなく近い希望だけを抱えて「出口がない無限螺旋」に向けて飛び込んでいくことになる。

そう、本作品がたどり着く最終地点は27年前の1994年に発売された「DESIRE~沈黙の螺旋~」のマルチナ=T=ステラドヴィッチと同じである。

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本作は、十数年ぶりに「DESIRE」によって味あわされた地獄が再現されていてとても素晴らしい

「DESIRE」はあまりに救いがなさ過ぎて当時プレイした人間の心を今でもつかんで逃がさない悪魔のゲームである。

「出口が全くないループに閉じ込められる地獄」を描いた作品は、「REMEMBER11」や「クレインの壺」などがあるが、やはり私のなかでは「DESIRE」が一番印象につよく残っている。

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マルチナの閉じ込められたループは、他者によって強制的に閉じ込めらたものでなく自らの意志でハマっているのが地獄度をさらに増す構造になっている。「その気になればいつでも投げ出せるが、投げ出した瞬間にそれまでの努力が根本から消滅する」という仕組みなのだ。

ループしている状態が最も希望をかなえられる状況に近い。ループをあきらめたら絶対にその希望はかなえられない。にも関わらずそのループ内でどれだけ努力しても希望が実現するときは永久にこない。これは、外部から別の要因によって変化がもたらされない限り絶対に変わらない。

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主人公は「本当にささやかな、ちっぽけな渇望」ゆえに、自らの意志でループに閉じ込められるのである。


この先自分を待ち受ける地獄と苦痛への恐怖に震え……
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それでも地獄に飛び込む決断をするシーンが本当に好きだ。
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そんなわけで、かなり完成度のたかい地獄が描かれているので、救いのない物語が好きな人はぜひ読んでみてほしい。



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なお、「DESIRE」の螺旋脱出方法はガチで考察している人がいるので当時ハマった人はぜひ読んでほしい

http://www.bb.e-mansion.com/~okayama/j-tako/docs/desire.html

rina.nadenade.com

*1:世の中には「NTR」と「タイムループ」を組み合わせたエロ漫画作品とかもありますが、もう作者天才かとしか言いようがないですね