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「ギフト プラスマイナス」  <1人で1つの命>というものさしで見る視点

必要のない命なんてない

なんで自分で自分を傷つけるんだろう。命は大事にしないといけないのに。彼女も、あたしならきっと「大切に」してあげたのに

一般的には素晴らしいとされる言葉。ただしこの作品おけるこの言葉は「どんな命でも生きるべきだ」という意味ではない。「無駄遣いはもったいないから有効活用しよう」という意味です((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

日本における臓器移植の現実

日本臓器移植ネットワーク | 移植に関するデータ | 移植希望登録者数

日本において、年間の移植希望者は約12万人。だが実際に移植を受けた人数は3000人足らずに過ぎない。それだけ、国内の正規の移植はハードルが高い。仮に移植を受けられたとしても、健康体に戻ることは絶対にない。

移植後は拒絶反応を抑えるため、何種類もの免疫抑制剤の投与が必要になる。そして移植された臓器の機能も、健康時の本来の自分の臓器と比べると20%程度に落ちるという。それでも移植希望者の数が減ることはない。

だそうです。

こういう現状*1において、臓器移植のための臓器を違法に「調達」する仕事をしている人間が主人公の話。

犯罪者を始末しているという正義を装っているタチの悪いマンガである「善悪の屑」と違い、あくまで「臓器提供」というビジネスが先にあり、主人公はその世界に適応してるという設定。そこに善悪の判断はされていない。

たとえ非合法でも、需要があるから供給がある。それだけの話だ。

ただの命の有効活用だよ。まだ「リサイクル」の段階じゃなかったというだけ。

また、「調達」の仕事をやっているのは主人公のグループだけでない。いろんなグループが「調達」の仕事をやっている。そういう状態で、読者としては、それぞれのグループに差をつけるかどうか判断する必要が出てくると思う。




<1人で1つの命>というものさしで見れば人間は等価になる…のだろうか

この作品はの特徴は、主人公が完全に我々の常識と違う価値観を持っていること。

人の個性だとか容姿だとか、その人の内面の葛藤だとか、そういうものを超越しており、<1人で1つの命>という単位で見ている。この観点なら、人はほぼ等価だといえるかもしれない。

あまり善悪などは考えない。ただ、この人は命を差し出す側か、受け取る側か、それだけを重視している。どうすれば少しでも命という価値が少しでも有効活用されるかを考えている。

あの男には生きているときは存在価値なんてなかった。でもこうなって初めて社会に貢献できたんだ。命は神様からの贈り物。それをより良い形で再分配するの。これも人助けだよ。

これ、功利主義を突き詰めた考え方かもしれない。「功利主義」って誤解されがちだけれど、実際はこういうことらしい。

「私が功利主義者ではない理由」 by ジュリアン・サバレスキュ - 道徳的動物日記

功利主義の基本的な考え方ははっきりしている…倫理における共通通貨とは人間の幸福である、ということだ。私たちのそれぞれにとって重要であるのは、私たちの生活がどうなるか、ということである。道徳とは全ての人々を平等に扱うことであり、即ち、全ての人々の幸福に平等な配慮をすることであるのだ。
(中略)
功利主義は、全く知らない他人に対して腎臓の片方を提供することを要求する。他人たちの幸福を最大化するために、自分の人生や家族や睡眠時間を可能な限度まで犠牲にすることを要求する。やろうと思えば、多くの人々の人生…あまりにも多くの人々の人生を改善することがあなたには可能であるのだから、功利主義は実に膨大な犠牲を要求する。

本当にすべての人を平等に扱うとはそういうことだ。

これが可能になるには、本当に誰一人特別な人間を持たない視点が必要だ。家族どころか自分さえもほかの存在と等価とみなす。功利主義を完全に突き詰めるとそういうことになる。社会的動物である人間にはまず不可能だと思われる。これは「Fate/Zero」の衛宮切嗣ですら失敗した思想であり、「ブラッドハーレーの馬車」の世界観なみに救いがない。

だが、そんな心が凍った思想を、この作品の主人公である女子高生は当たり前のように受け入れて実践しているように見える。大変恐ろしい。この主人公の背景には、少女売○問題や、虐待問題、胎児遺棄問題などが重なっており、なんか見てはいけないものを見ているような気分になる。





彼女が作品内でどのように変化していくのか、あるいは変化せず最後まで「完全」な存在でい続けるのか。そのあたりが興味深い。「少女不十分」のラストのような、救いのある展開はあり得るのだろうか。


読み始めたのであれば、最低でも5巻までは続けて読むことを推奨です^^



「少女不十分」コミック版の感想というか自分語り - この夜が明けるまであと百万の祈り

*1:長谷川豊さんは、透析にかける医療費を削減して代わりに移植を促進しようといってましたが、まずこの現実を踏まえていたかどうかがそもそも疑問ですね。あのひとほんとに、手持ちの知識を組み合わせて思い付きでしゃべってただけのような気がしますね。そういう人は、どれだけ態度が誠実そうに見えても、やっぱり駄目なもんは駄目