評価★★(個人的評価★★★★)
私は影崎由那さんのファンです。この人は「かわいい」と「悲惨さ・血なまぐささ」が併存してるストーリーを描くことが多いのですが。喜怒哀楽が非常にわかりやすい絵柄とこのストーリーの相性が素晴らしくよいんですよ。おかげで憎しみ・軽蔑といった負の感情からはじらい・喜び・好意といったプラスの感情まで登場人物の感情の振れ幅が非常に大きく、それを絵でしっかりと表現することで私を楽しませてくれます。
ストーリについても、単純に女の子がひどい目に合う作品はもちろん嫌いなのですが、過酷な運命にさらされながらも、心を殺さずに強い意思をもってそれに立ち向かう主人公としての女性、みたいな展開なので王道的な面白さがあります。サツバツ!な印象を受けるかもしれませんが、実際に作品の雰囲気はそんな感じで暗めなのに、女の子は本当にかわいくて、そのギャップがとても良いです。
というわけで、この人が「魔女の家」のコミカライズを担当していると聞いて飛びつきました。読んでみたら思ってた以上の出来でとても満足です。
ゲーム版「魔女の家」の前日譚
あれほど両親の愛を求めていた昔の自分を、冷めた気持ちで見つめていた。
私の欲望なんて、健康な身体と暖かい寝床、それに知識欲が満たされれば上塗りされてしまうものだったのよ。
この作品は、フリーゲーム「魔女の家」に登場した「魔女エレン」側を主人公とした物語です。ゲーム版「魔女の家」は、ホラーとしてよくできておりED分岐もあって楽しめる作品でした。作品が進むごとに違和感が増していき、その答えにたどり着いた時の驚きや、その後味の悪さから、記憶に残るゲームですよね。
ゲーム結末を知っていると「魔女エレン」はひたすらに極悪非道なキャラに見えるでしょうが、この作品では彼女がどうやって形成されていったのか、その成り立ちを知ることができます。
エレンと「魔法使いの嫁」のチセ、なぜここまで差がついたのか……
作中ではほとんど会話がなかった「悪魔」とエレンの会話が中心であり、彼女が、少しずつ闇に染まっていく感じがたまらないです。
しょっぱなからハンデを背負っていたけれど、両親の愛をもとめて得られず、「怪物」に見いだされてその世界に飛び込む、というのは「魔法使いの嫁」のチセと同じなのに、そこからの展開はまさに天地の差。チセは魔法使いに大事にされ、愛されることを知り、自分も相手を愛することを許される。読むセラピー。
しかし、こちらのエレンを見出したのは「悪魔」だった。これと比べたら、キュウベエの方がなんぼかかわいいと思えるような存在。明確な「意思」をもってエレンを絶望させ、それを楽しむ悪趣味なやつだった。
君は寒かったんだろ?あの路地裏で家も何にもなくなった君はどこか暖かい場所が欲しかったんだ。僕は君の望むものを与えたんだよ感謝されこそすれ、恨まれる覚えはないけどなぁ。暖かい食事、知識、友人。あ、友人ってのは僕も入ってるよ。それに健康な身体。 まぁこれは見せかけだけどね(笑)
君は知らなかったんだ。だから知る必要があった。君が、どれだけ不幸な子供だったかってことをさ。
生まれてから温かさを知らない人間は、ただ単に凍えて死んでいく。
でも、温かさをしった人間は、自分が今寒いと知って死んでいく。だから、不幸だ。わかるかい?君は不幸だったんだ。
あのまま死ねたら君は幸せだったんだよ。
君は、自分がどれだけ不幸か知るべきだったんだよ。
この時のエレンの絶望の表情、影崎さんの本領発揮で、素晴らしいです。
人を絶望させるのは悪魔にとって序の口、そこからエレンが魔女として染まっていくまでの描写がエグい
しかも、絶望させて終わりではないのがこの悪魔のひどい所。
他の健康な人間への憎悪を植え付け、欲望をこれでもかと煽り、どれほど欲してもそれが決して手に入れない現実を叩きつけて絶望させた後、うなだれるエレンにそっと囁いてくる
そうやって気に入らないものはすべて殺すの?いいね、すごくシンプル。僕は君のやり方は好きだよ。でも、他にやり方があると思うなぁ。
寒いと叫べることは大事なんだよ、エレン。
君には望みがあるだろう、言ってごらん、エレン。
君がほしくてたまらないものがあるだろう。
君は、愛されなかった。誰からも。
お父さんは君を見ていなかったし、お母さんは君を捨てようとした。君は愛されたかったのに。愛したかったのに。そう、その病気のせいで愛されない。おかしいよね?愛されてはいけない理由なんてないのに。君は愛されるべき人間であるはずなのに。
ねえ。
あの少年だって、君が病気だって知ったら、君を見捨てた。ひどいよね。全ては、君が病気であるせいだ。
君はもう、何が欲しいか自分で知ってるだろう?自分が本当に心から何を望んでいるか、わかっているだろう?君はもう、あの冷たくて暗い路地裏に戻ることはできないはずだ。
…ねぇ。
病気を治す魔法、教えてやろうか?
この「取引」を断って死を選べる人間なんているだろうか。
このあたり「似たようなシチュエーションはまどマギで見た」っていう人いると思うけど、絵が素晴らしいのでぜひ絵を見てほしいです。
まどマギってこのあたりの精神的にグロい部分、黒塗りにしちゃったじゃないですか。
この漫画は、この取引のシーンでエレンがどういう表情をしていたのか描くんだよね。
その時、私は知った。
ワツァイはこいつから逃げられないのだと。
そして私も、もう逃げるつもりなどないのだと。
私はもう戻れない。戻る道などなかった。
後悔?罪悪感?
そんなものはなかった。
だって、私は病気を治したかったから。
愛される身体を手に入れたかったから。
受け入れる前後のエレンの表情が本当に素晴らしいです。
ここからはどんどん壊れていって、最後の方はもう立派な魔女の表情になっている。
私は人間を殺すことが好きだったわけじゃないの。
だってそうでしょ?
人間だって、食べるために生き物を殺す。
私がしているのもそれと同じなの。
と、いうわけで。是非絵目的で読んでみて欲しいです。試し読みとかAmazonでなか見検索もできますが、私は一話はあんまり好きじゃなくて、とにかく4話~5話の表情の変遷を見て欲しいので難しいのう……。
魔女の家 エレンの日記 1 (ドラゴンコミックスエイジ か 1-4-1) | ||||
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ストーリーよりも。とにかく絵が良いです。 ……っていうか、私、絵が良いしか言ってませんね。