元の「ルワンダ銀行中央銀行総裁日記」だけでもリアル「小説家になろうかよ!」といわれるくらい面白いことは多くの読者の声が示している。
ただ、一方で「それだけ服部さんが頑張ったのになんで悲惨なルワンダ虐殺なんて起きてしまったんだ?」というところが分からないとスッキリしない。
実際(比べては失礼かもしれないが)「小説家になろう」のほうでは「異世界スマートフォン」や「百錬の覇王」のように、主人公が国主になったりするけど主人公age&チート頼りになって主人公いなくなった後に国の崩壊待ったなしなのでは?と疑われるものがある。 また、現実においてもアフリカにおける発展途上国を支援しようとして失敗に終わった事例は多いと聞く。
となると、はたしてこの援助は正しかったのか?正しかったのだとしたらその後どんな問題が起きたのか、というところが疑われて素直に読めないという問題があった。
@opqr5 人種対立を政治利用しすぎたのは間違いないですね。服部氏は意図的にああ書いたのだと思います。というのも、もとの中央公論の寄稿の方では大統領のツチ反乱軍に対する差別的な言辞や、親族の不正への関与を匂わせる記述があるのですが、新書ではそれをカットしているので。
— しゃいん (@shine_sann) 2015年5月11日
そこで、増補版ではこのあたりのミッシングリンクを埋めてモヤモヤを解消してくれる内容が追加されている。
①服部さんが在任中に行ったことを、本人ではなく第三者が簡潔にまとめて評価している。
②服部さんがルワンダを去ってからのルワンダの経済状況の変遷を解説し
(1970年代は順調に成長しているように見えたが、
ルワンダ経済は構造的問題を抱えており
1979年のある事件が転機となってそれが噴出して
格差が急激に拡大した上、わずか7年で国民の半数近くが貧困に陥った)
③経済的問題が人種対立につながり、やがてルワンダ虐殺につながっていったことも示される
④服部さん本人によるルワンダ虐殺についての「政治的な力関係」の解説がなされる。(この際に緒方貞子さんも出てくる。めちゃくちゃ格好いい)
⑤1994年虐殺後の経済発展の状況についても語られる。
⑥ここまでの流れを踏まえたうえで、「開発支援」について求められることをまとめ、その基準に基づいて服部さんの取り組みが再評価される。 さらに服部さんが退任後にもルワンダについて意見書を提出していた話などが語られる。
これも続けて読みたい。
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このため、元の「ルワンダ中央銀行総裁日記」単体を読んだ時よりもだいぶ納得度が高いと感じた。受け手のこちら側の気持ちがすっきりしたために、試行錯誤しながら国民のためになる取り組みを行った気持ちの良い物語として読むことができた。
もし私と同じようにモヤモヤを感じた、という人がいたら是非増補部分を改めてチェックした上で本編を読んでみてほしい。上で述べたようにまず概要がわかりやすくまとめられているので、本編を読むための導入としてもいい感じです。
うん。
経済問題と人種問題の接続はこの本でも語られていたけれど、このあたりを抜かして考えたらいけないなぁと思う。
本当に面白かったし、「これから斜陽を迎えるであろう日本も他人ごとではない」という感じだったので、改めて記事でまとめるか、twitcastするかなんらかの形でこの部分についてはアウトプットしておきたいと思います。
現在の支援状況
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/rwanda/data.html
ルワンダのGDPは1兆円。日本の600分の1ながら、経済成長率は年6%を持続
大虐殺から20年 「奇跡」と呼ばれるルワンダの発展 WEDGE Infinity(ウェッジ)
http://xn--rck1ae0dua7lwa.com/rwandanote/2017/04/18/vision2020/
カガメ氏の長期独裁やツチ族による支配
「VISION2020」の絶対遵守などやや中国ににた雰囲気を感じる
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NBO/16/jica1111/vol4_6/
JCIAによる支援の履歴
https://toyokeizai.net/articles/-/264212
長年にわたってルワンダの人々に寄り添う佐々木和之氏の紹介。