頭の上にミカンをのせる(&1年かけて整体する)

「命令されなきゃ、憎むこともできないの?」(ブルーアーカイブ#3 エデン条約編3.私たちの物語)

当ブログのおすすめ記事(アイキャッチ画像は気が向いたら作ります)
nosh3000円オフセールの紹介
kindleセールの紹介
おすすめマンガセール
ウマ娘

「アスペル・カノジョ」は信仰型恋愛の物語だった、といわれるとちょっと違和感があるカモ

www.saiusaruzzz.com

「自分から相手への一方的な作用」しか基本的には考えていない。そしてそれはすべては自分自身の救済のためである。
「本来はそういう話であるのに、その構図の隠蔽のしかたが『自分の問題でしかないことを恵の問題にすり替えている』」
「その理由が、自分を『俗物(独占欲がある→信仰型恋愛である)』と認めたくないから」
「そのことを認める可能性はないだろう」

めちゃくちゃよくわかる……

とにかく読んでて不安になるよねこの作品。ただ、無理強いはできないのだけれど、むしろそういう疑問を感じた人ほど最後まで読んでほしいなと思う作品ではあるんですよね。

というのも、私も途中で先の展開が不安になりすぎて挫折し、最終巻を読んでから安心して最後まで読み通すことができた人間なのです。

個人的には4巻あたりからは読むのが本当にしんどい作品であり、情けないのですが応援したい気持ちもありつつなかなか手が出ませんでした。
(中略)
そういう展開になった時にダメージに耐える自信がなかった。なので、本作品は完結してから読もうと決めていました。途中で応援できなかったのでいう資格はないかもしれませんが、無事に完結してくれて本当によかった。うれしいです。

https://www.tyoshiki.com/entry/2021/11/20/134235

なので、ぜひ最終巻を先に読んでから読み直すという形はどうでしょうかと提案してみたい。


まず最初に

ガッツリ信仰型恋愛の物語が読みたいのであれば、「ホーキーベカコン」や「コレラ時代の愛」という作品がありますね。特にホーキーベカコンは原作「春琴抄」以上にこの要素が強いです。

物語の真の構図においては、「横井が献身することを望んでいるから、恵は困難を抱えている」。

www.tyoshiki.com
www.tyoshiki.com

どちらも完成度が高いのでとてもおすすめです。

一方で、本作はそもそも「信仰型恋愛」を落としどころとしてない代わりに別の着地点を設けていると思います


おそらくうさるさんはもう続きを読む気をなくしていると思うのでネタバレ前提でお話しますが……。


本作は「横井も最初は(認めがたく感じつつ)かわいそうな女の子を救うことで自分が救われると思ってたけど、そこに救いはないし、実際は恵はそれだけの存在ではなかった」というオチになります。うさるさんは「だからそれが嫌なんだってば(好きな類型ではない)」とおっしゃっていると思うので本当に無理強いはできないのですが、それなりにオチは理解できる内容になっていると思います。


「白痴/障害ヒロイン」に代表される信仰型恋愛の類型について

p-shirokuma.hatenadiary.com

「可愛そうな女の子に献身することで自分が救われる」「主人公が救われるためだけに女の子たちは苦難を背負わされている」という欲望はエヴァンゲリオン以降からゼロ年代エロゲまで本当によく好まれたモチーフです。そして、むしろ横井も最初は(認めないまでも)そういうつもりだったと思います。彼女が物語のために生み出された量産型ヒロインだったら終盤でそれを認めて自分で自分と向き合ってーみたいなエロゲのお約束展開になっていたでしょう。

www.tyoshiki.com

単なる障害ヒロインの枠組みを越える「恵」というキャラクター

ところが本作の発達障害ヒロインである恵は、発達障害だけじゃなくてそこから二次障害三次障害と食らっている発達障害者です。彼女のガチの障害はそういう横井のヌルい欲望を一蹴します。簡単に言うと、自分がバリバリの当事者としてその困難・苦難に巻き込まれるわけです。自分と困難を抱える少女が分離できないんですね。一体化しているので、意図せぬ形でとっくに「対等」な立場に引きずり降ろされてる。この状況で信仰型恋愛をやっていく余裕などないのです。実際、横井はあるタイミングで自分では恵を支えきれない、このままでは共倒れになるという状況まで追い込まれています。

「そうはいっても健常者と発達障害者の間には壁があるし」という解釈も可能だと思いますが、途中の横井の追い詰められぶりをみても、むしろ最初の方が「信仰型恋愛」の自覚があって、知らぬ間に自分も転落していたという風に私は見ています。

「救うべきヒロインとそれを救う男」という構造の転倒(グリザイアあたりからメジャーになった印象がある)

そしてこの後何が起きるかというと、むしろ「重い障害を抱えていて自分が救うべき少女だと思ってた=自分より下だと思っていた」恵が、心が折れかけていた彼の認識を変えていくという要素が出てきます。(なお、物語中ではこの要素はその片鱗を見せただけで完遂されませんでした。作者がそれを描き切れなかったのはかなりリアルだなと感じます。)

「過去のいじめ問題との対峙」のエピソードにおいて、恵は横井を自分の意思を持って引きずり回します。横井はただ彼女の行動を後ろから追いかけて支えるだけです。信仰のために彼女の不幸を願う、とかそういう展開には全くなってません。彼女は横井の思い通りになる「自分を救済するためだけに存在する」ヒロインではなかったのです。
www.tyoshiki.com


私はこの辺りが本作品の事がとても好きな理由であり、逆に「僕の妻は発達障害」が、とてもよくできた作品でありながら好きになれない理由でもあります。

www.tyoshiki.com

ちなみに最終話で唐突にうさるさんの求める要素は消化されます

さらにネタバレを重ねますとうさるさんの問題について、実は解決されてます。

自分を『俗物(独占欲がある→信仰型恋愛である)』と認めたくないから」
「そのことを認める可能性はないだろう」

ただ、このシーンはあまり前後のつながりからしっくりくるものではありませんでした。


www.tyoshiki.com


作者としては当然描く必要性は感じていたけれど
それ以上に恵というヒロインが強くて物語の枠組みを越えていった。
そんな作品だったのではないかと思います。

物語の美しさを求めると微妙な作品だとは思いますが、
読み始めた人には、読むのしんどいと思うけれどもぜひ最後まで見届けてほしい作品ではあります。


逆に「アスペル・カノジョ」が好きだったという人には瀬戸口廉也の傑作「SWAN SONG」をぜひプレイしてもらいたい


SWAN SONG

構図としては昔は天才ピアニストとして活躍していたがピアノが弾けなくなり、人生の目的を失ってただ空虚な人生を送っていた主人公が、地震によって文明が崩壊した世界で、一人でも生きていくのが大変な状況であるにも関わらず「発達障害どころではない限界レベルの知的障害者」を守りながら生き延びようとするお話です。
シチュエーションノベルというやつであり、作者が描きたい目的のために非現実的な舞台を用意するお話ですがそれゆえに強烈なテーマ性を持っています。

「柚香はこんな行為に意味はないといったけれど、ぼくはそんな風にはちっとも思わない。これは絶対やらなくてはいけないことだ。あろえは何も気にしない。何も求めない。そんなことはわかってる。でも、そんなことを言っているわけじゃないんだ。神の子なんか関係ない。これは、いまはもういない僕の友達がその小さな両手で丹念に一つ一つ組み上げた手あかのついた石のかたまりだ。ぼくは誇らしくて仕方がない。絶対に立ててやる。そしてこのまぶしすぎる太陽に見せつけてやるんだ。ぼくたちは決して負けたりしないって」

こちらは、アスペル・カノジョが完遂できなかった(あえてしなかった)ことを最後までやりきった(やってしまった)作品です。

no1234shame567.hatenablog.com
note.com

プレイした人によってめちゃくちゃ好き嫌いが分かれる作品だと思いますが、私はこの作品が死ぬほど好きですね。


追記

www.saiusaruzzz.com

なぜ、横井が最後の最後まで「俺も」という「自分と恵のワンセット」でしか自分の苦しみを語れないのか、恵に従属した形ではなく、「俺が傷ついていた」(横井がそれを知るために、この物語があった。物語が横井の分身である恵(←作内で指摘がありましたが)に問題の大半を背負わせた)と認めないのか。
これを認めてようやく横井は、本来この物語で語りたかった「他人(恵)を分析するのではなく、自分自身の苦しさを主体として語る物語」のスタート地点に立てるのでは、というのが自分の考えです。

うさるさんから返信いただきました。ありがとうございます。

これは私も少し思うところはあって、「恵」については物語中で一通り語られるべき点は語られたと思う一方で、「横井」については(一定の説明はあるものの)「あまりにも理解ある彼すぎるけど、なぜここまでやるのか」という点についてそこまで納得できたわけではないんですよね。最後にさらっと語るだけで終わってる。私は「ここまで描き切れなかったのだろう」「この物語の先で見れる話なのかもしれない」「作者の自己投影になりすぎないように抑制された」などなどのフォローはできると思いますが、いずれにせよ、うさるさんの話のように「恵を語る話」であって「横井が自らを語る物語」まではいかなかった。このあたりはゼロ年代のエロゲ主人公と一緒じゃねえかといわれるとそうなんだろうな、と。


おそらくうさるさんが読みたい部分って、読み手にとってもめちゃくちゃしんどいと思うんですよね。
恵の障害ぶりだけでもしんどいので、ちゃんとそこまで描こうとすると「最初から結末を示すくらいのところが必要になった」と思いますが。それはそれで「この二人がどこにたどり着けるかわからない」という物語の緊張がうすれてしまうので難しいところですね……。なので、サンデーでは描けなかったのかもしれません。


これを読んで、ますますエロゲだけど「SWAN SONG」をお勧めしたくなっちゃった……(狂信者のたわごとなので無視してください)。SWAN SONGはプレイ時間の負担が重たすぎるので、かわりに「ヴァンパイア十字界」というマンガをお勧めしたいです。

www.tyoshiki.com