頭の上にミカンをのせる

もうマンガの感想だけでいい気がしてきた

高市早苗の経済政策を評価する(2/3)  ハードワークを推奨するやり方で日本は成長できるのか

昨日書いた「ブラック企業とは」「ホワイト企業とは」の話の続きです。


ブラック企業とは「消耗型」のビジネスモデルを採用している企業

ホワイト企業とは「持続成長型」のビジネスモデルを採用している企業と定義しました。




この前提において、ホワイト企業を増やすことで日本全体を成長させるために必要な取り組みを考えてみます。


最終的に、これを軸として高市さんの政策について次の記事で評価することにします



日本で持続成長型の企業が増えない理由はどこにあるのか?

この説が正しければ日本の大企業はだいたい持続成長型のモデルになっているはずですが実際はどうでしょうか

逆に、今までの日本では消耗型の企業でも大企業と言われる企業が多くあるイメージです。それはなぜでしょうか

1. 日本の大企業はなぜ「持続成長型」になっていないのか?

ご指摘の通り、日本の大企業は巨大な組織力(多数採用)を持つため、本来は「仕組み」によってスケールする(4)持続成長型を目指すべきです。しかし、実際には以下の理由でその移行が難しくなっています。

A. 「集団ハードワーク」という負の遺産
戦後の高度経済成長期に確立された日本の経営モデルは、終身雇用と年功序列を前提とし、「集団での長時間労働(ハードワーク)」と「組織への滅私奉公(絆)」を美徳としていました。
これは、マトリクスで言えば「多数採用」でありながら「仕組み」ではなく「ハードワーク」に依存する(3)消耗型の要素を色濃く持っています。
組織構造は(4)の仕組みに見えますが、その運用は精神論と時間投入に依存しているため、本質的な効率化が進みません。


B. 形骸化した「仕組み」(減点主義の定着)
大企業には人事制度や部署分割などの「仕組み」は存在しますが、その目的が「成長の再現性」ではなく、「リスクの回避」や「現状維持」に置かれていることが多いです。

報酬設計: アウトプット(成果)ではなく、インプット(時間、年次)を評価する仕組みが残っている。

分業の問題: 業務の分業が過剰に進み、担当部署しか全体像を知らない「ブラックボックス」が増大。これは業務効率化(仕組み化)とは正反対の「属人化の多重構造」を生んでいます。

C. パラダイム転換への脆弱性
(4)の持続成長型は「多様な人材と視点」により変化を早く察知できますが
日本企業は異質なものを排除し、同質な社員を長く雇用してきた結果、ビジネスモデルの転換が必要な状況に気づくセンサーが鈍っています。
そして、一度気づいても、硬直化した「仕組み」が足かせとなり、転換実行の余地が少ないのです。




2. 「消耗型」でありながら大企業でいられるのはなぜか?

マトリクスの(3)消耗型(多数採用 $\times$ ハードワーク)は、本来は持続不可能で淘汰されるべきモデルですが、実際には巨大な企業として存在し続けるケースがあります。

A. 市場独占力と参入障壁
歴史的な背景や巨大なインフラ投資により、競合が容易に参入できない市場で独占的な地位を築いている場合です。

事例: 特定のインフラ、流通網、または公共性の高いサービスなど。

影響: 内部が非効率で離職率が高くても、その市場優位性によって利益を維持できるため、内部の非効率が外部からは見えにくい(あるいは許容されてしまう)状態になります。

B. 労働力を低コストな「代替可能部品」と見なすビジネスモデル
企業成長が、個々の労働者のスキルや効率ではなく、ひたすら「総労働時間」に依存している業態です。

事例: 低マージンで大量の労働力を必要とするサービス業、大規模な小売業、一部の製造業など。

メカニズム: ハードワーク(長時間労働、低賃金)によって高まる離職リスクや再教育コストを、常に市場からの大量採用で賄い続ける構造です。社員を育成して定着させるコストを負うよりも、常に新しい労働力を使い捨てていく方が「安上がり」だと判断している限り、このモデルは成立してしまいます。

C. コストの外部化
社員のバーンアウトや精神疾患、早期離職に伴う社会保障費の増加など、「消耗」によって生じる負のコストを企業自身が十分に負わず、労働者本人や社会全体に転嫁している状態です。企業会計上は「安く済んでいる」ように見えるため、短期的には消耗型モデルの維持が可能になります。



まとめ
日本の大企業は、組織の規模から(4)持続成長型が理想ですが、過去の成功体験がもたらす集団ハードワークの文化や、形式的で硬直化した「仕組み」によって、効率化と成長の再現性が阻害されています。
(3)消耗型の大企業が存続しているのは、そのビジネスモデルが市場独占力や低コストの労働力供給に依存しており、内部の非効率を外部コスト化することで持続させているからです。


今後(4)の持続成長型企業が増えていくために必要なことはなにか

どうすれば(4)が増えていくと思いますか

・政治的な側面
・会社経営的な側面
・従業員からの働きかけ

の3つの方向から考えてください

持続成長型(多数採用 ☓ 仕組み)の企業が増えることは、日本の生産性向上と労働市場の健全化に不可欠です。

この移行を加速するための具体的な方策を3つのレイヤーで考えます。



1. 政治的な側面:ルールとインセンティブの再設計

政治・行政による役割は、「(3)消耗型」を経済的に成り立たなくする規制と、「(4)持続成長型」への移行を促すインセンティブの提供です。

1-1. 厳格な労働時間規制と罰則の強化(消耗型を抑止)

長時間労働のコスト化: 違法な長時間労働に対する罰則を大幅に強化し、サービス残業や過労死ラインを超える労働を許容する企業に対し、経済的に非効率であることを認識させる。

労働時間データの透明化: 企業の労働時間データを公表することを義務付け、投資家や消費者がブラックな企業を容易に識別できるようにする。

1-2. 仕組み化投資への優遇措置(持続成長型を奨励)

DX・業務標準化投資への税制優遇: 企業の業務標準化、RPA導入、AI活用、従業員向けリスキリングなど、「仕組み」を構築するための投資に対する税制上の優遇措置を拡充する。

非財務情報の開示義務: 企業に対し、**人的資本(従業員定着率、多様性、教育投資額)や生産性(一人当たり付加価値額)**に関する非財務情報の開示を義務付け、市場の評価軸を「売上」から「質の高い仕組み」へ転換させる。

1-3. 成長産業への流動化促進

解雇規制の柔軟化とセーフティネットの充実: 成長が見込めない産業から成長産業へスムーズに労働力が移動できるように、解雇規制を柔軟化する一方で、失業中の生活保障や再就職支援のセーフティネットを徹底的に強化する。これにより、企業も従業員も**「古い仕組みにしがみつく必要がない」**環境を作る。




2. 会社経営的な側面:経営戦略と評価基準の転換

経営者の役割は、「ハードワーク」への依存を断ち切り、「仕組み」を構築し、それを回す人材を正当に評価することです。

2-1. 「仕組み化」を最優先の経営課題とする

属人化の徹底排除: すべての業務について、**「その人がいなくなったら誰がやるか」**を前提としたマニュアル化、ドキュメント化、システム化を経営トップの指示で実行する。

時間ではなく再現性の評価: 役員報酬や管理職の評価基準を「いかに自分の部署の業務を標準化し、誰でも高いパフォーマンスを出せる仕組みを作ったか」に変更する。長時間労働は逆に評価を下げる要因とする。

2-2. 多様性の戦略的活用

採用基準の変更: 「自社の価値観に染まる人」ではなく、「異なる視点を持ち、既存の仕組みに疑問を投げかけられる人」を戦略的に採用する。

短時間・柔軟な働き方への投資: 育児・介護などでフルタイム勤務が難しいが優秀な人材を戦力化するため、リモートワーク、フレックスタイム、短時間正社員制度などを充実させ、働く時間と場所の制約を仕組みで解消する。

2-3. マネジメント層の意識改革と育成

「プレイヤー」から「システム設計者」へ: 管理職を「自分自身が結果を出すプレイヤー」から、「チームのメンバーが最高のパフォーマンスを出せる環境と仕組みを設計・運用する人」として再定義し、そのための研修と権限移譲を行う。




3. 従業員からの働きかけ:主体的な行動と市場の形成

従業員の役割は、ただ「楽な職場」を求めるのではなく、「仕組み」を生み出す側の主体的な一員となることです。



3-1. 「業務改善」を自分の仕事と定義する

ムダをなくす提案の推奨: 自分の担当業務の中で見つけた非効率や属人化している部分について、積極的に改善案や仕組み化のアイデアをマネジメントに提案する。

自律的なリスキリング: AIやデジタルツールを使いこなし、自分の仕事を効率化するスキル(リスキリング)を自律的に習得し、自分の時間価値を高めることを目標とする。



3-2. 転職による「市場の圧力」をかける

情報開示の促進: 企業の働き方や仕組みに関する情報をSNSや口コミサイトなどを通じて共有し、「ブラックボックス」をなくす。

「仕組みで勝つ企業」への移動: ハードワークに依存する消耗型企業から、より公正で効率的な仕組みを持つ持続成長型企業へ積極的に転職する。これにより、優秀な人材が「消耗型」から引き抜かれるという市場の圧力を企業にかけ、経営陣に変化を迫る。




3-3. 労働組合・従業員代表の役割転換

要求を「賃上げ」から「生産性向上」へ: 労働組合が単に賃上げや労働時間の短縮を要求するだけでなく、**「生産性を上げるための仕組み化投資」や「公平な評価制度の導入」**を経営側と対等に交渉し、仕組みの改善を主導する。