前の記事で「北九州一家連続殺人事件」の話しました。
北九州一家連続殺人事件と「闇金ウシジマくん 洗脳くん編」 その1 - 頭の上にミカンをのせる
続けてこの事件をベースにした「洗脳くん」編(26巻~28巻)を紹介します。
悪い意味でめちゃくちゃ丁寧に描かれすぎておりもうほんとに胸糞悪いとかいうレベルではない。「ウシジマくん」自体苦手で読んでなかった私にはホンマにきつい。しかし絶望しかないのがわかっているのに、途中で読むのをやめることもできずに最後まで読まされてしまいました。恐ろしいよこの作品。
マインドコントロールの手口が本当に細かく描いており、他にも「徹底的に被害者を社会から孤立させた上で管理下に置き、心にもない親への恨み節を強制的に書かせる」など、人を支配しようとする人間の恐ろしさが嫌というほど描かれています。
「殺された一家は反抗できなかったのか?」と思ったことがある人がいるかもしれませんが、こんなやつに狙われてしまった場合、あるラインを超えた後は絶対に無理だと思います。そもそも最初に「反抗しよう」「逃げよう」という心を丁寧に潰してくる。
パワハラ問題で追い詰められて死んだ人に「死ぬくらいだったら抵抗したりやめればいいじゃないか」だとか「死んだら負けだ」と言ってしまう人がいますが、本当の意味でのパワハラやブラック企業の管理がどれほど恐ろしいかは、この本で学べると思います。とにかく、あるラインを越えたらもう逃げることすらできません。その前「ちょっとでもやばいと思ったらすべてを投げ出してでも逃げろ!」って言いたい。
※なお、この記事ではマンガを紹介していますが、マンガが読む人が苦手な人はドラマ版もあります。ドラマではシーズン3の第五話から放映されています。対応してるのはdTV・UULA・ビデオパス・ゲオチャンネルです。
U-NEXTではシーズン1,2,ファイナルが見放題になっていますね。
- LV1 被害者となる「まゆみ」が目をつけられたきっかけ
- LV2 「神堂」が家庭に入り込んでくる
- LV3 婚約した途端に、豹変していきなり暴力をふるい、生活を管理してくる。この段階が許容可能な犠牲で逃げられる最後のチャンス
- LV4 社会から孤立させられ、監禁された上で「躾」という名の洗脳が始まる。ここまで来るともうほとんど逃げられない。
- ※「神堂」はスピリチュアルカウンセラーと組んで結婚詐欺を同時並行で行っていた
- LV5 すでに思考力を失った状態で知らず「犯罪行為」に加担させられる。ここで完全に逃げ場を失う
- LV6 神堂が家族を脅迫にかかった時点で、すでに家族は抵抗が難しい状況だった
- LV7 家族内で殺し合った経緯は「創作」になっており、現実の事件とはあまりリンクしていない
- おまけ ウシジマくんはこの話のどこで登場するのか?
まず26巻から。
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LV1 被害者となる「まゆみ」が目をつけられたきっかけ
「まゆみ」という人物がこの話の主人公になるようだ。
まゆみは「上昇志向があるものの、結婚願望もあり、つきあっている彼氏には不満がある」という設定にアレンジされている。現状に強いストレスを抱えていて、スピリチュアルカウンセラーに依存しているような状態になっている。
まゆみには、途中で上司とジョギングに行き、それをきっかけに責任ある仕事を任されそうになったり、彼氏もようやく世間に認められ、主人公と向き合う覚悟を決めようとするなど、まゆみの人生が良い方向に進むきっかけはたくさんあった。
しかし、運が悪いことに人生が好転するタイミングが遅かった。
まゆみは上司よりスピリチュアルカウンセラーの方を選んでしまうことで、社会からズレた方向を選んでしまい、人生が前向きになる前に、人生に不安や不満を抱えていたところを、神堂という男に目をつけられてしまった。
LV2 「神堂」が家庭に入り込んでくる
これと並行して神堂と思しき人間を追っている警察の姿も描かれる。どうやらその頃は「天見」と名乗っていたらしい。「天見」について過去に関わった人間に話を聞こうとしても、写真を見るだけで恐怖に震え「何も知らない」「関わりたくない」と答えるばかり。 よほどのトラウマを植え付けられたようだ。
この神堂は早々に「まゆみ」の家庭に入り込み、それぞれの人間を懐柔していく。そうやってそれぞれの人間に取り入りながら、各自の弱みを握ったり、不和の種を仕込んでいく。この男はまゆみの母親や妹とも関係を持つ。 そうやって彼女の一家は地獄に引きずり込まれていく。
LV3 婚約した途端に、豹変していきなり暴力をふるい、生活を管理してくる。この段階が許容可能な犠牲で逃げられる最後のチャンス
神堂は婚約までは紳士的だったが、あるときに「婚約指輪をしてなかった」「仕事場に婚約を伝えなかった」という理由でいきなり豹変する。
相手がそれを引け目におもうものであれば暴力を振るう理由は何でも良かったと思われる。
いきなりまゆみに暴行を加え、彼女の携帯などいろんなものを管理しだす。「釣った魚にエサをやらない」どころではなく「釣った後は完全に所有物として扱う」ということか。
まゆみは仕方なく仕事場や友達に婚約したことを伝え、引くに引けない状況となるが、そうした状況が整うやいなや、神堂はいきなり「事業のためにお金を500万円用意してくれ」と要求してくる。
「紳士だったのにいきなり暴力的になる」「DVを受けた上にお金を要求された」。この時点でまゆみはすでに危機感を感じ、婚約を破棄したいと考えるが、もうこの時点で家族から友達まですべて神堂に籠絡されており、自分の意思だけで婚約破棄することができない状況に追い込まれてしまった。
LV4 社会から孤立させられ、監禁された上で「躾」という名の洗脳が始まる。ここまで来るともうほとんど逃げられない。
神堂は、まゆみには非がないのに男から連絡がかかってきたことでさらに暴力をふるい、さらに彼女の交友関係からすべての男性を削除させたり、職場に変なメールを打たせたり、強制的に欠勤させたり、不正行為をさせたりして、社会からの関係を少しずつ絶たせる。
そうやって孤立させてから、日常的に暴力をふるい、食事も与えず彼の許可なしでは指先一つ行動を取ることができない状況まで管理する。このときも徹底的に飢えさえ、睡眠も取らせず、思考力を奪ってからアメとムチでしつけを行う。
このあたり、描写が微に入り細に入りで悪い意味でメチャクチャ丁寧なため、読んでいて本当にしんどい。でも洗脳って本当にこんな感じでやるんだろうなと思わされる。
※「神堂」はスピリチュアルカウンセラーと組んで結婚詐欺を同時並行で行っていた
最初はまゆみが「共犯」になると思っていたが、どうやら違ったようだ。共犯はすでにいて、まゆみが依存していたスピリチュアルカウンセラーが共犯だった。(まぁ途中からわかってたけど・・・)
どうやら彼女に相談してくるような女性のうち、資産を持っていたり実家が裕福な家庭に神堂が入り込んで「結婚詐欺」や「生命保険受け取り」を行うというシステムになっていた。 ここで「他の被害者」の様子が描写されるが、私は読んでるだけなのに恐怖で身が震えました。
*1
ここから27巻。
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LV5 すでに思考力を失った状態で知らず「犯罪行為」に加担させられる。ここで完全に逃げ場を失う
(4)で述べたように、「神堂」は他でも殺人を行わせていた。そして「処理された死体」の廃棄ををまゆみに行わせた。 まゆみは「神堂」にしかられたくないばかりに何も考えず言われたとおり「死体」と知らずにそれを廃棄し、それが犯罪であるとして「神堂」に責められる。
本当は神堂が仕組んだことだが、もうすでに思考できる状態ではなく、ますます追い詰められたまゆみは、「犯罪を黙っていてくれる」代わりに2000万円の借金を背負わされ、ますます神堂に逆らえなくなる。
まゆみははこの先を悟ったのか、なんとか神堂のもとから逃れようと自殺未遂をして病院に運び込まれ、退院日をごまかすことでなんとか逃れようとするが、結局連れ戻されてしまい、ここからさらに過激な「躾」を受けることになってしまう。
自分の意思で死ねると思っている時点で、大変腹立たしい。自殺は積極的な態度で傲慢です。私と対等だと思っている奢りのあらわれです。自尊心をすべて奪って、抵抗できないように調教しなくては(27巻)
LV6 神堂が家族を脅迫にかかった時点で、すでに家族は抵抗が難しい状況だった
神堂はここまでまゆみを追い詰めてから、満を持して本命である「彼女の家」を攻略しにかかります。最終的に28巻で決着がつきますが、この後の展開は自分で読んで確かめてみてください。
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LV7 家族内で殺し合った経緯は「創作」になっており、現実の事件とはあまりリンクしていない
人間は最悪な状況下で現実逃避ができる知能が高い動物です。なので、追い詰めれば客観性を失い、都合よく物事をとらえるのでだまされていることに気がつけなくなるのです。
新しい金脈が見つかったので、厄介な上原家は本格的なイス取りゲーム強化月間です。家族の問題は家族内で解決してもらいましょう
正直言うと、26巻と27巻は恐ろしいほどの完成度だったと思いますが、逆に28巻は微妙だと感じました。特にカズヤが積極的に他の家族に加害行為を行った経緯については事件の調書をもとにしていると思われますが、逆に無力化されてしまった経緯あたりからは描写が急に雑になっています。(実際の事件では、犯人は子供を人質に取っていた経緯があるのですが、残酷すぎるので子供の被害者はウシジマくんの方では登場しておらず、その空白が埋まらない感じです)
意図的に雑にしたのか、この部分はいくら頑張っても普通の人間の感性ではあの事件の本当の闇の部分は想像することに限界があるのかはわかりませんが、今までがやたらと丁寧だったため非常に不自然な印象を受けます。
また、現実の事件ではもとの一家の住居は久留米。殺害が行われた場所は小倉。また、このマンションは最初に殺害した男性に手配させたものでああったりします。完全に監禁されるまでの間、結構遠い場所まで移動していたのにそれでも被害者たちは外部に助けを求められなかったのですが、そのあたりについて納得の行く描写はありませんでした。
現実の事件は、ウシジマくんの描写と比較してもさらにおぞましいものであり、さすがにこの作品もそこまでは描けなかったのかもしれません。ウシジマくんの犯人ですら十分許せないのに、現実の事件の犯人はさらに鬼畜だったというから本当に恐ろしい
おまけ ウシジマくんはこの話のどこで登場するのか?
この「神堂」は本当にえげつなくて
(1)共犯のスピリチュアルカウンセラーを使ってカモを探し
(2)追い込んだカモの家族などに借金を追わせ、その借金返済のために女を風俗に沈める(絞り尽くした後でその女も殺す)
というシステムを運用していました。
たまたまその風俗店舗の店長がウシジマくんから金を借りに来た。
ウシジマくんは、金を貸した相手からの「貸し倒れ」のリスクがあったから介入することになるのですが。
誰かを守りてえなら強くなれ。
意思のないやつは、悪い人間に利用されっっぱなしだぞ?
自分を救えないやつは、他人なんか絶対に救えないぞ。人に、やっちゃいけねえことなんてねえ。
罪を背負う覚悟があればな。
それがないやつは、虫けら同然だ。
お前にいってんだぞ、神堂。信用できるやつは、自分から信じろなんて言わねえよ。
目的地を決めるのは道路標識じゃねえ。ハンドルを握ってる運転手だ。
お前はどうしたい?上原まゆみ!
・・・・・・これウシジマくんじゃなくて、上条当麻じゃね?
*1:ちなみに、28巻で判明しますが、「ウシジマくん」においては、このスピリチュアルカウンセラー(本名は麻生川弥生。本当に占い師をやっていたらしい)の女性の家族も全員殺されています。この人物については最後まで詳細な描写はありませんでした。共犯Yと、最終的に脱出して犯行を露呈させた少女Aの両方の役割を果たしていますが、この人物の描写が微妙なため、作品としてはかなり不自然な存在になってしまっています
*2:どこかの会社がやってたとされる「LINEで寝ないように5分おきに連絡させる」みたいなルール。あれ普通に考えたら「そんなの絶対無理だし何のためにこんな意味のないことをさせるのだろう」って思ってましたが「絶対に無理な命令をして、達成できないことを理由にペナルティとして体罰を与えたり借金をさせる」ことが目的だったならありえるのかも。そう考えると「寝ずに働かせることは不可能です」は全く反論になってないですね
*3:ちなみに、本作品は幸色のワンルームとは比較にならないレベルでの被害者へのセカンドレイプに該当すると思いますが……。なんというか、幸色のワンルームを批判しておいてこっちはスルーなんかな?あの人達の考えてることはよくわかりません。極論すると「指導者」が怒ったものを通して怒りを発散しているだけなのでしょうか。自分の意思で怒るのではなく、怒りのはけ口を他人に依存してるというのは健全なこととは思えないです