8巻までで、この作品は「外国場ディングルの血統」と「国産馬ユキカゼの血統」の間で、それぞれの生産者の思いものせた果てしない戦いが続いているというストーリーになっていることが判明した。
ディングル―マキシマム ―マックスハート
ユキカゼ ―シルフィード―シルフィードジュニア―白の一族
8巻までは「シルフィード陣営、特に紅堂サキ目線」から過去の因縁が語られた。
しかし、本作の主人公マルスはマキシマムやマックスハートの仔ではない。
では「ヘルメス」から生まれた「マルス」とはいったい何者なのか?
なぜこのマルスだけが絶えてしまったといわれるディングルの血を引きついているのか。 9巻からは「マルス」の話に戻っていく。

- 作者:本島幸久
- 発売日: 2014/10/17
- メディア: Kindle版
凪野家と「パーフェクトブルー」ことディングルとの出会い
①遺伝学学会に出るために訪米していた凪野兄妹は、幼馴染で馬産牧場の息子才谷僚平と共にディングルと出会う。
才谷は馬主と掛け合ってディングルの輸入権を獲得。
スポンサーに紅堂家を見つけ、いよいよ3年後にディングルの輸入が決定する。
②なかなかディングルの蒼い瞳を受け継いだ仔が生まれなかっため、才谷は凪野に配合を依頼する。
その結果生まれたのがディングルの仔・ヘルメスだった。
③ディングルの仔は次々と活躍。
特にマキシマムはダービーを制覇するなど目覚ましい活躍を見せていた。
しかし紅堂家の騒動によってディングルは売却されて凪野たちから遠い存在になってしまう。
また、マキシマムの仔が次々と故障したことでディングルの種付け依頼はなくなる
(いやそうはいっても3年分残ってるでしょ……)
④紅堂家からディングルを買った馬主は目論見が外れて破産し、夜逃げしてしまう。
馬主から見捨てられたディングルも行方不明になってしまう。
⑤ディングルを信じる才谷は必死の思いでディングルを捜索し、ついに見つけるも遭難。
才谷は救助されるも凍傷により両手足の指を失い、起き上がれない身体になってしまう
⑥しかしディングルは生殖能力を失っており、ヘルメスも競走馬復帰は絶望的。気力を失った才谷はどんどん衰弱してしまう。
⑦凪野は才谷のためにヘルメスを「調教師の力を借りずに」自分の家族だけで調教し、天皇賞春に出走させる。そして、念願のG1を獲得。才谷に笑顔を取り戻す。
⑧才谷は結局1年後に病死するが、その際に「ヘルメスの仔」に夢を託すことになる。
→しかし、その結果凪野はヘルメスの仔との配合にのめりこみ、凪野の妻である結は過労で死亡する。
人を死なせすぎではないですかね……
ここまでで両陣営とも死者の怨念のようなものを引きずっており
陣営 | 道半ばで倒れる |
ユキカゼサイド | 紅堂父、早川ジン(植物状態) |
ディングルサイド | 才谷、凪野結 |
さらにいえば、途中で無理やり引退させられて種牡馬入りしたシルフィードジュニアや
ディングル血統の実験で多数の馬が死亡したりと狂気の度合いが高すぎる。
なんなんだこのやべーマンガ。
共同通信杯にて「ハヤタ」と対決し、まさかの敗北。
……うーーーーん?なにこれ?
正直言って、このエピソード「ナニソレイミワカンナイ!」って感じです。全然好きじゃない。
もちろんやりたいこと自体はわかる。
ハヤタやマルスが決戦を前に敗北するというエピソード自体は別にいいんだけれど
よりによって2歳の時に格付け終了したはずのハヤタくんで、調教師河原崎の本気の結果?
まず要素的にあんまり納得感がないし(これがやりたかったなら2巻の時からちゃんとそう描いてほしかった)
レース中の描写がまた微妙で、完全に舐めプレイからの敗北にしか見えなかったのに負けて泣くほど悔しがる……ってもうなんじゃそりゃ……って感じ。
さすがにいろんなものを一つのレースに詰め込み過ぎな気がします。
さらにいえば、レースの位置づけもかなり微妙。
なまじ過去編をめちゃくちゃ丁寧にやってただけに、その直後に来た共同通信杯レースでこんな走り方されたらマモルくんのこと応援しにくくなります……。
これなら共同通信杯に負けた後で過去編やったらよかったじゃないですか……。ほんとに意味が分からない。
直前の「因業」の重さに比べて、あまりにもマモルくんがヌルく感じる。
なんか残りの巻数がやたら少ないんだけれど……もしかしてリアルタイムの時このあたりで人気が落ちて打ち切りになったのではないかと邪推してしまうほどにこの描写は減点要素でかいと思います。
敗北後に再起を図るマルス陣営(谷村厩舎)
・作中ではあくまで自戒のための言葉だとは思うけれど、読者としては「ほんまその通りなんだけど君たち何やってたの?」って言いたくなるほどのひどさだった。
・しかも、ここで早々に立て直しが必要なところで、同じ谷村厩舎の「コバロン」のエピソードが入る……。まず騎手のマモルの立て直しのためのエピソードだと思うのだけれど正直これも要らない……。
・マルスも前回の敗戦で少しやる気を失っていたが、エルアルコンの姿を確認することで何とか気合を入れなおすことに成功する。
・・・要するに、マルスは「対白の一族専用機」ってことがやりたかったんかな……。
ここでさらに「大学牧場の危機」という事情をかぶせてくる
・マルスの敗北により、大学の牧場が廃止の危機に
・さらに運が悪いことに、ヘルメスとフェイユンの間にできた第二仔が生まれてすぐ死んでしまう。
いや、そこでマルスに全部背負わせるのはちょっとやりすぎじゃないですかね。
この作品、「ユキカゼ血統とディングル血統との対決」に焦点を絞りたいのかそうでないのかどっちなんだ……。
このあたりまで、マルス陣営だけじゃなく作品も迷走していた気がします
でも、白の一族との対決に戻ってからはまた面白くなってきます。
サイレンススズカのイメージを持つ「エルアルコン」相手にスプリングSで激突
①マルスはスタートから逃げ馬のように飛び出し、エルアルコンに先行する。
②先行した後ひそかにペースを落とし体力を温存する「ツインターボ師匠」戦法。エルアルコンが追い付いたところからスタミナ勝負に挑む。
③この作品らしい荒唐無稽なアクションでマモルはアバラを骨折するが、レース自体はなんとかハナ差で差し切って勝利。
それが血統を残すということなんです。
ひとつの馬の血統を残すということは、ただ遺伝子を残すということじゃない。この興奮と感動、それを後世に伝えていくことなんです。私は、人と馬がどう生きたか。それを未来へ伝えたいんです。
④スプリングSではエルアルコンに勝利したが、エルアルコンにとってはあくまで皐月賞のための練習台だった。続けて若葉Sでも力を残して勝利。このままでは皐月賞では勝てない……マルス陣営はさらなるレベルアップを求められることになる
皐月賞にてエルアルコンと勝負
①エルアルコンの鞍上・向井陽と、その妹である向井茜とちょっとしたエピソード。
②エルアルコンは、雨の重馬場が苦手なのに決戦のため出場。案の定ペースが乱れるが蹄鉄を外し蹄から血を流しながらも激走。
③マルスも最終コーナー途中からのロングスパートで肺がギリギリの状態に。
うわあ……。なんというか……。
流血しながら走る姿を「馬の意志だから止められない」としそれでいてその走りは「血の連鎖を支え続けてきた人たちの熱い思い」として人の物語に回収してしまうのか。
競馬ってちょっと業が深すぎじゃないですかね。
④結局、このレースでは「馬場適性E」のエルアルコンがマルスに勝利するが、それでもマルスはより闘志を燃やす。結局この戦いでは血筋の争いに決着がつかず、最終決戦はダービーに持ち込まれることに。
正直言って、ちょっとこの9巻~12巻途中までの展開は「うーん……」って思わされてしまうところが多かったけれど、それ故に競馬というものの業の深さはしっかり伝わってきたような気がします。
泣いても笑っても「日本ダービー」で最終決着となりそうですね。
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